第六章:この空の下で

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 思ったままを素直に口にすると論平は照れ たようにそっぽを向き、けれど僕に歩み寄る。 そして、どこから取り出したのか、あのトゲ トゲした鬼のこん棒のようなそれを僕に差し 出した。  「お前にやる」  「えっ、でも」  「もう助けに行ってやれないからな。これ からは自分の身は自分で守れ!」  僕は目を見開き、差し出されたそれを受け 取る。思ったよりも重いそれを手にして構え るように振りかざせば、「うわ、似合わねー」 と、はじめ君が声を上げて笑った。  「ありがとう論平。いざというときは、僕、 コレで戦うよ」  似合わないという言葉に含羞みつつ頷くと、 やがて僕はそのやり取りを見て苦笑いしてい た莉都の前に立つ。すると莉都は、つい、と 僕から目を逸らし、小首を傾げながら言った。  「……手術、大変だけど頑張ってね。上手 くいくように祈ってるよ。それとね、わたし」  そこで言葉に詰まると莉都は俯いてしまう。  あの日、病院の帰り道で先生と一緒に行く ことを伝えてからというもの、莉都はどこか よそよそしくて、元気がなくて。  僕はいつもの莉都らしい笑顔を見られない まま、それでも少しでも長く莉都の傍にいよ うと思い、ずっと寄り添っていた。  「ねぇ、莉都。連れてって欲しいところが あるんだけど」  「えっ?」  僕の目を見ようとしない莉都にそう言うと、 彼女ははっと顔を上げる。久々に莉都と目が 合ったことにほっと胸を撫でおろすと、僕は 昨夜ベッドの中で思いついたことを口にした。  「あの桟橋に連れてって欲しいんだ。もし かしたらまだ間に合うかも。だから」  「……ああ、桟橋の街灯」  莉都が目を見開く。  明けの明星がうっすらと見える冬天を見上 げれば、いつか見に行くと約束した幻想的な 光景が目に浮かんだ。こくりと頷いた莉都に 僕は笑みを返し、待っていた先生に駆け寄る。 そして、持っていた三段重とこん棒を渡した。  「ごめん、先生。少しだけ時間ちょうだい。 莉都と行きたい場所があるんだ」  「別に構わないけど。僕が連れてこうか?」  「いい。莉都の自転車に乗せてもらうから」  そう言って振り返った先には自転車に跨り、 僕を待っている莉都がいる。先生は困ったよ うに眉を寄せると、渋々頷いた。  「今日だけは見なかったことにする。気を 付けて行ってくるんだぞ」  「うん!行こう、莉都」    「乗って!!」  僕は自転車のリアキャリアに跨り、両手で サドルを掴む。そして冷やかすようなみんな の視線を背中で受け止めると、朝靄が立ち込 める街の中を颯爽と走り始めたのだった。
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