エピローグ

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エピローグ

 ーーオレたちが生きるこの世界は、潤色さ れた真実に覆われている。  そのことを知ったあの時から、三年の月日 が流れた。  アレルバの研究員である和達萩生が拉致殺 人容疑で逮捕され、現役の警察庁長官が事件 に関与していたという事実はニュースでセン セーショナルに取り上げられ、世間を「あっ」 と驚かせるかと思われたが……。事件のこと は疎か、柊弥が拉致され十四年もの間人体実 験をされたという悲劇も、いっさい表には出 なかった。  もちろん、発砲事件が発生し捜査員が重体 となった事実も公表されていない。代わりに 各新聞社の紙面を大々的に飾ったのは、柊弥 が引き起こした巨大な落雷だ。  『夜空に黄貂顕(きてんあらわ)る!!』という見出しと共 に、いくつかの企業がシステムダウンにより 業務が継続できなくなったことや、停電の影 響で信号機が止まり、道路が大渋滞に陥った という事態がどの新聞社も詳細に記されていた。  「報道規制が掛かったんだろ。柊弥の異能 力を世間に公表するワケにもいかないし」  いつものことだよ、と付け加えはじめ君は オレの不満を一蹴したけど。そんな状況だか ら和達たちが起訴されたのかも、裁判がどう なっているのかもまったくわからない。結局、 国家に真実を隠されてしまえば、国民がそれ を知る術はないということなのだろう。  そのことを知ったオレは、あの時から少し だけ世界が違って見えるようになった。  学校から帰宅し階段を上ってゆく。  玄関には桃々の靴しかなく、どこかガラン とした家の中は落ち着かない。オレは二階の 廊下を進むと、自室の部屋の手前にあるドア をノックする。すると「は~い」という声が 返って来たので大きくドアを開けた。  「おかえりぃ、早かったね」  「試験週間だからな」  「そっか。高校生は抜き打ちでテストされ ないからいいね。って論平君は試験勉強なん てしないか」  「してるよ。みんなが寝た後に!」  机に向かって宿題をしていたらしい桃々が、 くるりと振り返り憎まれ口を叩く。オレは口 を尖らせつつ部屋に入ると、窓際に立ち重い 鞄を下ろした。そして、ちらと机の上を覗く。 答え合わせをしているらしい桃々は赤ペンで くるくると回答を丸で囲み、瞬く間にノート が赤丸で埋まってゆく。  オレはその様子に目を見開くと声を掛けた。  「すげーじゃん。パーフェクト」  「まあね。桃々、算数得意だし」  「学校の先生になるって夢、変わんないの か?」  「うん。丸付けするの大好きだから小学校 の先生になりたい。論平君は将来何になるか 決めてる?」  「一応な。なれるかわかんねぇけど」  「え、なになに?何になりたいの?」  丸付けをする手を止め、桃々が興味津々と いった顔を向けてくる。オレは照れくささに 腕を組んで窓を向くと、ぼそりと言った。 ※黄貂⇒落雷と共に地上に落ち人畜を害する 雷獣の異称。想像上の怪獣。
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