エピローグ

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 「家庭支援専門相談員。実親と暮らせない 子どもと里親をつなぐ仕事に携わりたいんだ。 社会福祉士の資格取んなきゃなんねぇーから、 結構ムズイけど」  「じゃあ養護施設で働くんだ。その話聞い たら、お父さんもお母さんも喜びそう」  にっこり笑って頷く桃々に、「そうかなぁ」 と呟き頭を掻き毟る。小学校からずっと成績 が振るわなかったが、いまは目標があるから か集中力が増して成績がどんどん伸びている。  このまま大学受験に向けて突き進むつもり だが、今日明日は家族との時間を優先しよう と心に決めていた。  「母ちゃんいないみたいだけど、どこ行っ てんだ?」  「たぶんね、カボチャ最中買いに行ってる んだと思うよ。はじめ君も帰ってくるし今夜 はすき焼きにするんじゃないかな?買い出し で大忙しなんだと思う」  「すき焼きか。また肉の取り合いになるな。 一人暮らししてる息子に食べさせてやりたい 気持ちもわかるけど、オレたちに気ぃ使って 父ちゃん『しらたき』しか食わねぇんだよな。 ま、家族が揃ってるだけで父ちゃんも母ちゃ んも腹いっぱいって感じだけど」  「みんなで笑いながらご飯食べられるだけ で、幸せなんだよ。桃々も杏子と一緒に寝ら れるから、ベッドにおやつ持ち込もうかなぁ。 さっさと宿題終わらせちゃおう♪」  そう言ってまたくるくると丸付けを始めた 桃々に、頬を緩める。今日は月に一度家族が 揃う日なのだ。大学進学を機に一人暮らしを 始めたはじめ君と、月に一度面会を許される ことになった杏子が泊まりに来る。  「俺朝弱いし、満員電車に揺られて通学す んの怠いし、やっぱ家出るわ」  第一志望の国立に合格したその日。  家出騒動を起こすほど孤独に怯えていたは ずのはじめ君は、寮の入居手続きを済ませあ っさりと家を出て行った。が、こうして杏子 の面会に合わせて毎月実家に帰ってくるので、 あまり離れて暮らしてる気がしない。  父ちゃんも母ちゃんも初めこそ寂しがって いたが、長男がいない日常に慣れたのか二人 が帰ってくるこの日を楽しみに日々を過ごす ようになっていた。  腕を組んだままで、ふと窓の外を見やる。  「そろそろ着いたかな?」  家族が全員揃うという今日の朝、ボストン バッグを手に家を出た莉都を想いぽつりと口 にする。すると桃々はまた手を止め、オレの 顔を覗き込んだ。  「長距離バスとフェリーを乗り継いで八時 間でしょ?もうそろそろ着くんじゃないかな。 でもホントに止めなくて良かったの?莉都ち ゃん、もう帰って来ないかもよぉ?」  揶揄うように言って横目でオレを見る妹に、 思いきり眉を寄せる。最近とみに老成(ませ)てきた 桃々は、時折り姉のような顔をして人の顔色 を窺ったりする。
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