プロローグ

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 「もうすぐご飯できるし、寒くなってきた し、ソラも戻ろうよ。もっと頑張りたいかも だけど、お母さんがたっくさんビーフカレー 作ってくれたからさ。みんなでご飯食べよう」  「さすがに、膝がガクガクでこれ以上跳べ ないよ。でも、もう少しだけここで休んでて いいかな。ふかふかな芝生の上で静かに波の 音を聴いてると、とっても気持ちいいんだ」  その気持ちわかる、と言いたげに目を細め たかと思うと莉都は立ち上がり、スカートを 叩いた。そして「風邪ひかないようにね」と 言い置き、庭に面した広いリビングへ入って いった。  誰も居なくなった庭で、僕は空に向かって 両手を伸ばす。人差し指と親指を交互に繋げ 四角を作れば、記憶の中にある小さな『空』 がどこまでも続く茜色の空にぽっかりと浮か んだ。  あの空をどこで見たのか。  いまもまだ思い出せない。  僕はどこで生まれ、どんな風に育ったのか。  それすらも覚えていなかった。  僕は、本当の『僕』を知らないまま生きて いけるのかな。ふと、そんな疑問が頭を過る。  「もう、『ソラ』のままでいいかな」  誰に問うでもなく、ぽつりと呟く。  ずっと、このままがいい。そう思い始めて いる自分に苦笑し、繋げていた指先を解いた。  いつもいつも、小さな空を見上げていた。  その記憶に隠れているはずの真実に怯えな がら、僕はこの場所でいまを生きていた。
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