第一章:秘密

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 「どこからでも青いよ。空気は無色透明だ と思ってるだろうけど、陽の光を浴びた空気 は少しだけ青く光ってるんだ。でも地上だと その光が弱すぎて青色を見ることが出来ない」  「そっか、目には見えないけど空気は青く 光ってるんだ。じゃあ太陽が沈む時、どうし て空は赤く染まるの?空気の色も青から赤に 変わるんだよね?」  答えてくれた声にまた質問を投げかけると、 ふ、と笑んだ気配がした。  「そうだな。ちょっと難しい話になるけど、 そもそも太陽の光には紫や青、緑、赤といっ た波長の異なる色がバランスよく混ざってる んだ。そして空気は分子という小さな粒で出 来ていて、その分子は波長の短い青い光ほど 強く散乱するから青い色が僕たちの目に届く。 青よりも波長の短い紫が見えないのは人の目 が紫を感じにくいためなんだ。それに対して、 波長が長い赤は散乱されにくいから太陽の光 が大気中を長距離にわたって進んできた時に、 人の目に入ってくる。だから空は青く見える こともあれば、赤く見えることもある。空の 色は空気が作るものだから、空気が存在しな い月の空は宇宙と同じで真っ暗に見えるんだ」  「ふぅん、空気がないから月の空は真っ暗 なんだ。面白いな」  またひとつ物知りになれた。  そんな風に思って、僕は知らず頬を緩める。  そうして、緩く息を吐き出しながら言った。  「この小さな空の向こうにある大きな空は、 無限の宇宙と繋がってる。そう考えると何だ か気が遠くなるんだ。青い空の向こうはどこ まで行っても行き止まりがない。そう思うと、 自分が酷く小さな存在に思えて、怖い」  「同感だ。僕も空や宇宙のことを考えると、 ときどき怖くなる。自分がいつ消えてなくな ってもおかしくないくらい、ちっぽけな存在 に思えてしまう」  「大人になっても、同じことを思うんだね」  「ああ。怖いと思うこともあるし、不安に 思うことだってたくさんある。さ、そろそろ 起きようか」  その言葉に頷き体を起こそうとした瞬間、 なぜか視界が白い靄に包まれた。あれ、と不 思議に思い目を瞬いた僕の体が、ずぶずぶと ベッドに沈んでゆく。重力に引っ張られるよ うな感覚にびくりと体を震わせた僕の目に次 に映ったのは、どこかの家の、見知らぬ天井 で……。僕は夢現のまま、木目の天井にぶら 下がっているお月様のような丸い照明を見つ めた。  ここはどこだろう?  もしかして、まだ夢の中にいるのかな?  そんなことを思いながら眩しさに目を細め た時だった。  「あっ、起きた」  突然、耳元で涼やかな声がして僕はカッと 目を開いた。と、同時に女の子の顔が、ぬっ、 と横から視界に飛び込んでくる。僕はそのこ とに驚き「うわぁ」と情けない声を上げると、 隠れるように頭から布団を被った。
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