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「おい、いきなり覗いたら驚くだろ。それ
に莉都、距離近すぎ!」
「ごめん。ずーっと目を覚まさなかったら
どうしようって思ってたから、つい、ほっと
しちゃって」
「まあ、そう突っ掛かんなって。別の意味
で論平がヤキモキしてんのは、わかるけどさ」
「ヤキモキって何だよ。別にオレは何も!」
「はいはい。莉都の前にイケメンが現れた
からって、別に動じる必要ないよな。俺たち
家族なんだし。あー、ごめんね。煩かった?」
傍らから賑やかなやり取りが聞こえ、恐る
恐る布団から顔を覗かせた僕に、頬骨の辺り
にそばかすが散った男の子が人の良い笑みを
向けてくる。布団で鼻先を覆ったまま僕が小
さく首を振ると、彼の隣に座っていた女の子
が腰を浮かした。
「驚かせちゃって、ごめんね。どこか痛い
ところない?大丈夫?」
「……うん」
痛いところがあるかどうかわからなかった
けど、取り敢えず頷いてみる。すると女の子
は相好を崩し、「良かった」と呟いた。
「あのね、今朝、お花に水をあげようと思
って庭に出たらガーデンテーブルにあなたが
突っ伏して寝てたの。どこの誰かわからなか
ったけど、声を掛けても揺すってもぜんぜん
起きてくれないし。で、寒いから風邪引いち
ゃうといけないと思って、お父さんとはじめ
君を呼んでここまで運んでもらったんだけど。
なにも覚えてない、よね?」
それは問い掛けでなく確認で。僕は声もな
く小さく頷く。そして、のそりとベッドから
体を起こすと、困ったように顔を見合わせて
いる彼らに訊いた。
「……あの、僕が寝てた場所って」
彼女の言う通りここに運ばれたことは疎か、
庭で寝ていたということさえ覚えてなかった。
だけど、その庭を見れば思い出せるかも知れ
ない。そう思って訊ねた僕に、女の子は立ち
上がり窓の外を指差してくれる。
「あそこ。この部屋の真下にある庭なんだ
けど、見えるかな?あの丸い石のテーブルに
顔を埋めて寝てたんだよ」
僕は彼女の指先を追うように首を伸ばした。
すると、窓の向こうに海に面した広い庭が
見えた。手入れの施された庭には芝生が敷き
詰められていて、庭を四角く囲うように柵が
設えてある。丸い石のテーブルは海側に配さ
れていて、テーブルと同じ丸いイスが三つ、
等間隔に並んでいた。
「たぶん、車庫の隙間から庭に入ったんだ
と思うんだよね。うちはカーゲートないから
誰でも簡単に入れちゃうし」
まじろぎもせず庭を見つめる僕に、そばか
すの男の子が説明を加える。けれど、その話
を聞いてもどうしてこの家の庭で寝ていたの
か思い出せなかった僕は、口を引き結んで首
を振った。
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