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「なに、笑っちゃうくらい面白かった?」
「あ、ううん。ごめん、別にそういう訳じ
ゃないんだけどね。桃々が言ってた通りだな
って思って」
照れているのか、拗ねているのかよくわか
らない顔で首を傾げているはじめ君に、莉都
は笑いを堪える。
「桃々が言ってた通り?」
「そう。はじめ君を探しに行こうとしたら
ね、桃々が教えてくれたの。はじめ君はいま、
お父さんのことを想いながら子どもに戻りた
いって考えてるよ、って」
「ああ、なるほどね。だからここがわかっ
たのか。いつものプチ家出とは行動パターン
違うのに、よくわかったなぁと思ってたんだ」
ぽりぽりと頭を掻きつつ、はじめ君が笑う。
そのはじめ君に、ぺろりと舌を見せた莉都
に僕も思わず笑みを零した。
「さっ、そろそろ帰ろっか。とっくに日付
変わってるし、お母さんも心配してるし」
すっくと立ち上がった莉都に、はじめ君は
腕を組み、なぜかその提案に難色を示す。
「ごめん。せっかく迎えに来てもらったの
に悪いんだけどさ、先帰ってくれる?」
「えっ、どうして?」
「実は、朝日が見たくてここ来たのもある
んだよね。夜が明けて朝日で空が白んでいく
中に、桟橋の電球がぼんやりと灯る風景が幻
想的だって、どっかのサイトに書いてあって
さ。一目でいいから心が洗われるようなその
風景を見てみたいなぁ、と思ったワケ」
胡坐を掻き、ちろりと視線を真っ暗な海に
向けたはじめ君に、莉都は目をまん丸くする。
「あっきれた!朝日を見ようと思ってたの?
こんな寒空の下で夜を明かしたら、風邪引い
ちゃうじゃん。受験生なんだからもっと体調
管理に気を使ってよ」
「いや、でもさ、受験って言ったって実際
受けるのはまだ先だし、見たいと思った時に
見とかないと……」
「そんなの、受かってからだって見られる
よ。見たくなったらここに来ればいいんだし、
桟橋はどこにも逃げないんだし。だいいちっ、
一晩家を空けるつもりなら家族にそう伝える
べきでしょ?どうしてはじめ君はいつもそう」
「ちょ、ちょっと莉都、やめようよ。こん
なところではじめ君を責めてもさ」
なにやら険悪な空気になってきた二人の間
に、慌てて割って入る。が、莉都は頬を膨ら
ませたまま引き下がる様子はなく、はじめ君
も、ぷいっ、とそっぽを向いてしまっている。
さて、どうやってこの場を収めようかと僕
がひとりで悩み始めた、その時だった。
「なぁに、騒いでんだ」
突然、陸の方からコジさんの声がして僕た
ちは一斉にそちらを向いた。
「……父さん」
大股で僕たちの方に歩いてくるコジさんを
見て、はじめ君が掠れ声を漏らす。そのはじ
め君に目を細めると、コジさんは大きく息を
つき彼の隣にしゃがんだ。
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