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「なんだ、泣いてんのか?デカい成りして、
しょうもないなぁ。はじめが傍にいてくれて、
父さんと母さんが嬉しくないわけないだろう。
お前は頭がいいから、いちいち言わなくても
わかってると思ってたんだが。そーか、それ
で悩んでたのか。悪かったなぁ、もっと早く
に気付いてやれなくて」
「……うっ、うぇっ」
堪えきれずに嗚咽を漏らし始めたはじめ君
の頭を抱き寄せ、コジさんがやさしく背中を
擦る。コジさんの胸に顔を埋めたはじめ君は、
ついに子どものように泣き声を上げ、その声
に僕は震えてしまいそうになる口を引き結ん
だ。ふと隣に立つ莉都を覗き見れば、寄り添
う二人を見つめ涙を流している。僕は慌てて
上着のポケットをまさぐると、指先に触れた
ビニールの感触に肩を落とした。
「ごめん、莉都。これしかないんだけど」
そう言って、中に入っていたポケットティ
ッシュを差し出すと、彼女は面映ゆい表情を
向けた。
「ありがと。ハンカチよりこっちの方が、
助かるかも」
スンと洟を啜り、ティッシュを取り出すと
莉都は恥ずかしそうに顔を背け、鼻をかむ。
僕は莉都を見ないようにして視線を海に向け
ると、呟くように言った。
「いまは真っ暗だけど、きっと陽が上った
ら綺麗なんだろうね」
「うん、綺麗だと思うよ。わたしは何回か
しか来たことないけど、はじめ君が言うよう
に朝焼けの中にうっすらと街灯の灯りが灯る
様は幻想的なんじゃないかな」
「僕も、いつか見られるかな。この場所で、
朝日を見てみたいな」
そう口にすると、莉都は鼻先を赤くしたま
までふわりと笑んだ。
「見に来よう。今日は無理だけど、はじめ
君の受験が終わって、暖かくなったら一緒に」
「うん」
いまは想像の中でしかその風景を見ること
は叶わないけど、莉都と未来の約束が出来た
ことがなんだか嬉しかった。そんなやり取り
をして僕たちが笑みを交わしていると、はじ
め君が落ち着いたのか二人も立ち上がる。
年甲斐もなく大泣きしてしまったことが恥
ずかしいのか、はじめ君は下を向きしきりに
手の平で涙に濡れた頬を拭っていた。
「うーっ、さぶっ。ほれ、とっとと帰るぞ。
明日も学校だし、母さんも家で待ってるし」
傍らに突っ立っていた僕たちの頭に、ポン、
ポン、と順に温かな手を載せると、両の二の
腕を擦りながらコジさんが歩き始める。
どうしても今日、朝日を見る必要がなくな
ったのだろう。
「……帰るぞ」
はじめ君は俯いたまま照れ臭そうに言うと、
ポケットに両手を突っ込み、コジさんの後に
続いた。
「帰りますか」
「うん」
いつもより何だか小さく見えるはじめ君の
背中にこっそりと笑みを交わし、僕たちも歩
き始める。街灯の灯りが朧げに照らす桟橋は
やはり視界が悪く、僕は目を凝らしつつ陸の
方を見やった。
――その時だった。
「いたっ、やーっと見つけた!!」
潮音に混じり論平の声が聞こえたかと思う
と、突然、強烈な光が視界を覆った。
その瞬間、僕はまるで時が止まったように
その場に立ち竦んでしまう。
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