67人が本棚に入れています
本棚に追加
目の前が黄色い光に包まれたのと同時に、
閉ざされていた自分の記憶の中に放り出され
たような、そんな感覚だった。僕は眩い光の
中で、ただひたすら目を見開いていた。
――そこがどこかは、わからなかった。
場所はわからないけど、光の向こうから人
の声が聞こえてくる。会話のやり取りから声
の主は、二人の男性だということがわかった。
「やはり、頭痛の原因は脳腫瘍でしたか」
「残念ながら、悪性の髄膜腫ですね。後頭
蓋窩に腫瘍が出来て、脳を圧迫していること
が頭痛の原因と思われます。このまま放って
おけば症状が進み、めまいや意識障害なども
出てくるでしょう」
誰かの指先が僕の瞼を固定し、見開かれた
眼に光を当てている。僕は眩しくて仕方ない
のに瞼を閉じることも、体を動かすことも出
来ない。もしかしたら椅子か何かに、体を固
定されているのかも知れなかった。
動かない体を必死に動かそうとしている僕
を他所に、二人の男性は淡々と会話を続ける。
「手術で何とかなりそうかな?彼は大事な
××だ。こんなことで見す見す死なせるわけ
にはいきません」
「いまのところ、動眼神経の方はまだ異常
が出ていません。付着部硬膜も含めた腫瘍摘
出手術を行い、取り切れない部分は陽粒子線
治療を行いましょう」
「それで命は助かるのかね?」
問い掛けにもう一人の男性は浅く息を吐く。
「再発さえしなければ予後は良好と言えま
すが、なにぶん悪性の場合は再発率が高いの
ではっきりしたことは言えません。もし再発
してしまった場合、五年生存率は六十%前後
かと。陽粒子線治療が功を奏するといいので
すが」
「そうか。とにかく、早急に手術の手筈を
整えよう。彼の××××はもう決まっている。
死んでしまいましたじゃ済まされない」
「わかりました。最善を尽くします」
その言葉と共に、視界を覆っていた眩い光
が霧散してゆく。眼前の光景が元の暗闇に戻
ったかと思うと、金縛りのように動けなかっ
た体が、突然、自由になった。
ふっ、と体の力が抜け僕はよろけてしまう。
その僕の腕を掴み、莉都が顔を覗き込んだ。
「ちょっと、大丈夫?どうしちゃったの?
狐につままれたみたいな顔してるよ」
切れ長の双眸が、心配そうに僕を見つめる。
僕は文字通り狐につままれたような心地で、
莉都の顔を間近に見ながら、ぱくぱくと口を
動かした。
「……僕、ずっと、ここにいたよね?」
「えっ、なに言ってるの?ずっと、いたよ。
帰ろうかって歩き出したら向こうからライト
を照らしながら論平が走って来て、そしたら
ソラが急に立ち止まっちゃって」
僕は莉都の横で口をへの字にしている論平
に、目を向ける。その手には、莉都が鬼のこ
ん棒のようだと称したそれが握られていて。
論平はまさに、鬼の首でも取ったような得意
げな顔をしていた。
最初のコメントを投稿しよう!