第四章:声の主

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 「お前がその強力ズームライトを照射した から、ソラがおかしくなっちゃったんじゃな いか?確か、直接光源を見るなって注意書き してあったよな?」  肩叩き棒のようにこん棒で肩を叩いている 論平を、はじめ君が背後から小突く。  「んなこと言ったって、しょうがないじゃ ん。こんな暗い桟橋をライト無しで歩いたら 危ないだろ?だから俺がみんなの足元を照ら してやったんだ。これ、軍隊でも使用してる らしくてさ、百メートル先まで強力照射でき るんだよな」  カチッとスイッチを押し、論平が何食わぬ 顔でズームライトを僕に向ける。  その瞬間、ついさっきよみがえった記憶の 断片が脳裏に浮かび、僕は思わず息を呑んだ。 ――それで命は助かるのかな?  抑揚のない声が脳内に木霊し、僕は思いき り顔を歪める。彼らのやり取りを思い出した 途端、なぜか、いままで何ともなかった頭が 唐突に痛みを訴えはじめた。  「……いっ、っ!!」  ズキン、ズキン、と心臓の鼓動に合わせて 頭の中心に痛みが走る。鈍器で殴られるよう な痛みに、ざわ、と背筋が粟立った。  「こぉらっ、人に向けちゃダメだって言っ てんだろうっ!」  「いてっ!!」  痛みに耐えられず額に手をあてると、コジ さんにゲンコツを食らったらしい論平の声が 聞こえる。  「ソラっ、大丈夫?また頭痛いの???」  僕の背中を擦りながら、莉都が心配そうに 問い掛けてくる。が、僕は顔を歪めるばかり でちゃんと答えられない。大丈夫と言いたか ったけれど、運動会の時より痛みが強かった。  「……ごめっ……アタマ、イタイ」  絞り出すようにそれだけ口にすると、すぐ に莉都とはじめ君が両側から僕を支えてくれる。  「わかった、急いで家に帰ろう。お父さん、 通り出てタクシー拾ってくれる?わたしソラ を連れてタクシーで帰る」  「おう、待ってろ。すぐに捕まえるからな」  論平を連れてコジさんが桟橋を走ってゆく。  その足音を遠くに聞きながら、僕は二人の 肩を借り、陸風が吹き抜ける桟橋をゆっくり 歩いたのだった。  微かな物音に目を覚まし、薄暗い部屋の中 を眺める。まどろみを繰り返した頭は痛みこ そ治まっているものの、まだ夢の中にいるよ うで意識ははっきりしない。いまが暮夜なの か、残夜なのか、判然としないまま僕はベッ ドに潜り込み、幾日かの時を過ごしていた。
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