第四章:声の主

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 「どうして、か。どうやら君は色んな記憶 が欠落しているようだね。おそらく、心的外 傷によって引き起こされる解離性健忘という やつだろう。受け入れがたい事実を目の前に すると、君はいつもと違う引き出しに記憶を 仕舞い込んでしまうんだ。だから、自分にと って重要な情報さえも、思い出せなくなって しまう。自分が比類なき力を持つ異能力者で、 雷を操ることが出来る『ヴォルトキネシス』 だということもね」  「……僕が、異能力者???え……まさか」  一瞬、何を言ってるのか理解できなかった。 ――雷、異能力者、ヴォルトキネシス。  初めて聞かされるその言葉に混乱し、僕は 表情を止める。冗談を言ってるのかも知れな い。可笑しなことを言って僕を揶揄ってるの かも。そんな思いが頭を擡げたが、場違いな ほど真剣な眼差しを向ける博士にその思いは すぐに掻き消されてしまった。  いま彼が言ったことは、嘘でも、冗談でも ない。僕は雷を操るヴォルトキネシスなのだ。  だから僕は、ずっとあの部屋に閉じ込めら れていたというのだろうか?僕がこの能力を 使って、誰かを傷つけないようにするために?  そこまで思考を巡らせた僕は違和感に気付 き、はっ、と息を呑む。僕が人々に害を及ぼ すヴォルトキネシスで、危険だから隔離して いるというなら、時々研究所で行われていた あの実験と辻褄が合わない気がした。  その疑問を言外に滲ませると、和達博士は にやりと口角を上げる。  「僕が雷を操るヴォルトキネシスだと言う なら、あの研究所で博士はどんな研究をして るんですか?僕が危険な能力者だから誰かを 傷つけないように見張ってるって言うなら、 博士が僕にしていることは、変です」  心を落ち着かせながら、慎重に言葉を選ぶ。  彼はいま、すべてを僕に話そうとしている。 その真実がどんなに残酷なことでも、辛いこ とだとしても、いまここで受け止めなければ 僕はこれからの『僕』を、どうすることも出 来ない。強い眼差しを向けると博士は、ふっ、 と息を漏らした。  「案外、すんなり受け止めてくれたようで 安心したよ。断片的に記憶は抜け落ちている が、辛うじて残っているものを繋ぎ合わせれ ば自ずと真実が見えてくるのだろうね。さて、 わたしがアレルバの研究所で君に何をしてい るか、だったね」  「はい」  「まず、わたしがいる部署の名は知ってい るかな?」  「アレルバの……地球環境エネルギー部門」  「正解だ。電磁バリア技術を用いて落雷を 制御する研究を日々行っている。あくまで表 向きは、だがね」  最後のひと言に僕の心臓がぶるりと震える。  表向きは落雷制御技術の研究。  ならば裏では?  僕はごくりと唾を呑んだ。
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