第四章:声の主

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 「あなたは僕をどうするつもりなんですか。 雷を操る僕の能力を、何かに利用するつもり なんですよね」  僕が敵意を剥き出しにすると、博士は嘲笑 する。  「『博士』から『あなた』に変わったね。 まあ、君にどう思われようとわたしは一向に 構わないが。巨大な雷を瞬時に、広範囲に発 生させることが出来る君は、生きたHPEM発 生器だ」  「HPE……どういう意味ですか」  「つまり、落雷によって強力なパルス状の 電磁波を発生させ、地上のインフラに壊滅的 な被害を与えることが出来る生きた電磁パル ス爆弾だよ。本来、この攻撃を行うには核弾 頭を搭載したミサイルを発射しなければなら ないんだが、君はボタン一つで攻撃を行うこ とが出来る。その画期的な能力を是が否にも 手に入れたいという軍需企業があってね。 ノアギルド・アストラルというアメリカの企 業なんだが、すでに兵器として君を輸出する ことが決まっている」  「……すでに決まってる、って。そんな」  ガン、と頭を殴られたように視界が揺れる。  僕を兵器として輸出する?  生きた電磁パルス爆弾として?  そんな非道徳的なことがまかり通るのだろ うか?たとえ普通の人にはない能力があった としても僕はひとりの人間で、心だってある というのに……。  言い知れぬ恐怖と屈辱感に強く唇を噛み締 めると、そんな僕に追い打ちを掛けるように 博士が滔々と語る。  「君は絶望しているだろうが長年この研究 に携わり、莫大な費用を掛けてきたわたしは、 その苦労が報われ万感胸に迫る思いなのだよ。 多くの軍需企業が武器を売り捌き在庫を処分 するために、戦争の火種を欲している。七番、 君は戦争の火付け役として活躍できる逸材な のだよ。君を手に入れた企業はどこぞの国で 戦争を巻き起こし、膨大な利益を上げること だろう。そしてわたしの名は『精神工学兵器 の父』として、歴史に残る。君のお陰で金も、 名誉も手に入れることが出来るんだ」  そう言って嘲笑う顔は、狂気に満ちていた。  こんな血も涙もない人に利用されるために、 僕はあの部屋に閉じ込められていた。そう思 うと、胸に憎悪が渦巻いて肌が粟立つようだ った。善人の皮を被った悪魔のようなその人 を睨みつけ、僕は拳を握り締める。  「僕は、兵器なんかじゃない。僕は、誰も 傷つけない」  「ほぅ、誰も傷つけないと。どの口が言う のか。何も覚えていないとは言え、滑稽だね」  「それ、どういう意味ですか」  間髪を入れず僕が切り返すと、博士は醜く 頬を歪めた。
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