第四章:声の主

33/37
前へ
/145ページ
次へ
 「……ごめんなさい、莉都。ごめっ……僕、 ホントに、ごめんなさい。ごめんっ、なさい」  大粒の涙を流しながら、唇を震わせながら、 そう言い続けるソラにわたしはわけがわから ないまま首を振る。そして涙に濡れそぼった ソラの頬を両手で包むと、真っ赤な目を覗き 込んだ。  「どうして謝るの?訳を言ってくれなきゃ わかんないよ。どんなことでも話してって、 言ったよね?頼りにしてるってソラも言って くれたじゃん。お願いだからもう泣かないで。 ソラが泣いてると……わたしまで、泣きたく なっちゃうよ」  込み上げる涙に声を詰まらせると、ソラは 目を閉じて小さく頷く。それでも震えが止ま らないソラの肩をそっと抱き寄せると、再び 鳴り始めた警報機の赤色を肩越しに見つめた。 ――わたし、ソラが好きだ。  伝わってくる小さな振動が、彼の温もりが、 そう気付かせてくれる。触れたら壊れてしま いそうなほど脆いソラの心を包んであげたい。 わたしの全部でソラを守ってあげたい。この 気持ちは、ともすれば母性のようにも思える けれど。きっと、それだけじゃない。だって、 ずっと傍にいて欲しいと思うのだから。ソラ に笑っていて欲しいと、心から思うのだから。  下りてきた遮断機に行く手を阻まれた車が、 すぐ側に止まる。道端に座り込んだまま身を 寄せ合うわたしたちを覗き、怪訝な顔をして いる運転手を()め付けると、論平はその視線 を遮るように立ち背を向けた。  冷えた夜風を揺らしながら再び電車が通り 過ぎ、辺りが静寂に包まれても、わたしたち はしばらくそのまま、その場所に佇んでいた。  もう二度と戻らないと思っていた月見里家 に戻り、はじめ君と論平の部屋に入ると、僕 は涙を堪えながら、思い出したことを訥々と 語った。  「……マジか」  すべてを聞き終えた論平が、ぽつりと声を 漏らす。その声に項垂れたままで拳を握ると、 僕は自分でもよくわからない微笑を浮かべた。  何もかも僕の妄想で、作り話だったらどれ ほど楽だっただろう。そんな風に思ってしま う自分が惨めで、滑稽だったのかも知れない。  雷を操るヴォルトキネシスだということも。  研究所に幽閉され実験を受けていたことも。  莉都の両親が亡くなったのが、僕のせいだ ということも。  全部嘘偽りのない事実で、僕の犯した罪が 消えることはないのに。こうして、すべてを 話し終えても夢であって欲しいと願う自分が 哀れで、情けなかった。  「……謝っても、とても謝り切れないけど」  そう呟き、恐る恐る視線を上げた先に莉都 の泣き顔がある。膝を擦り剝き、大きなカッ トバンを右足に貼った莉都は論平のベッドに 座り僕を見つめていた。僕は涙に濡れた莉都 の眼差しを受け止める。そして、両手を床に 添えると、深く深く、体を折り曲げた。
/145ページ

最初のコメントを投稿しよう!

67人が本棚に入れています
本棚に追加