第四章:声の主

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 「ごめんなさい。莉都から大事な家族を奪 ったのは……僕です。許してもらえるわけな いってわかってるけど。謝って済むことじゃ ないって、わかってるけど。それでも、僕っ」  そこで言葉を詰まらせた僕の耳に、ベッド の軋む音が聞こえる。莉都が立ち上がったの だろう。僕は彼女に詰られることを覚悟し唇 を噛み締めた。  けれど数秒ののち、耳に届いた莉都の声は 酷くやさしいものだった。  「……ソラのせいじゃないよ」  静かにそう言った莉都に、僕は信じられな い思いで頭を上げる。そこには涙に頬を濡ら しながら、小さく首を振る莉都がいた。  「ソラのせいじゃ、ない。あの落雷を起こ したのがソラだって知って、ちょっと頭が真 っ白になっちゃったけど……。でもソラは何 もわからない小さな子どもで、ただ近づいて きた悪魔が恐かっただけでしょ?ただ恐くて、 お母さんを求めて泣いただけ。自分が何者か も知らなくて、そんなことが起こることも知 らなかったんだから」  「そうだけど、でもっ」  「ソラは悪くないよ。ソラを責めたいとは、 一ミリも思わない。それなのに、まだ謝るの? あれは事故だったんだよ。誰にも予測できな い事故で、わたしの両親はたまたま巻き込ま れてしまっただけ。そうでしょ?」  目の前にしゃがみ、莉都が笑みを向ける。 僕はもう二度と見られないと思っていたその 笑顔を、幻でも見ているような心地でじっと 見つめた。  すると、僕たちのやり取りを静観していた はじめ君が、口を開く。  「俺も莉都の言う通りだと思うよ。こうい うの、不可抗力って言うんじゃないの?まあ、 あえて罪を問うなら俺は避難路を塞いだ飲食 店やビルの管理者に責任があると思うけどね」  そう言って論平に視線を流し同意を求める。  視線を受け止めた論平は腕を組むと、僕に 頷いて見せた。  「オレも。ソラに罪があるとは思えねぇよ。 確かに、落雷がなければ火災は起きなかった かもしんねーけど、雷なんてソラが起こさな くったっていつでも起こるだろ?その和達と かいうヤツは罪悪感を植え付けて、自分たち のいいようにお前を利用しようとしてるんだ。 能力は持つ者の気持ちひとつで善にでも、悪 にでもなるのに、そいつらは悪いことに使う ために罪の意識でお前を縛ろうとしてんだよ」  「能力は善にでも悪にでもなる、か。たま にはいいコト言うじゃん」  力説した論平をはじめ君が肘で突くと、彼 は照れたようにそっぽを向く。  「父ちゃんの受け売りだよ。たまたま覚え てただけ」  「なるほどね。何にせよ、ソラが粉々にな らなくて良かったよ。これも桃々のお陰だな。 ソラがヴォルトキネシスだって聞いても普通 に受け止められたのは、身近に超エンパスの 桃々がいてくれたからだし」  はじめ君の膝にちょこんと座っている桃々 の頭を、両手でくしゃくしゃと撫でる。桃々 は兄の手をまんざらでもないといった表情で 掴むと、僕に言った。
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