平穏時代物語

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数十日後 陽与梨視点 「陽与梨ちゃん、出来上がったから持っていってー!」 「はーい!」 朝はいつも通り陽与梨は台所にいた。 お膳を一つ手に取ると一緒に働いている女性に言われる。 「そう言えば陽与梨ちゃんの分もいるんだっけ? 二つ同時は流石に持っていけないわよねぇ。 私も行こうか?」 「・・・け、結構です!!」 あれから陽与梨と権巌は一緒にいることが多くなった。 あれ以来食事は権巌の部屋で一緒にとることになっている。 まずは権巌の分を運ぼうとお膳を持って権巌の部屋へと向かった。 「権巌様、失礼いたし」 「おう、来たか」 口にしている間に権巌が自ら開けてくれる。 そして陽与梨が持っているお膳を受け取った。 「早く自分の分も持ってこい」 「・・・はい」 ―――あれからほとんど一緒にいるけど権巌様の横暴な性格は相変わらず変わっていない。 ―――だけどどこか前よりも優しさを感じられる。 そうして一緒に朝食をとっていると権巌が思い出したかのように言った。 「そう言えばそろそろだな」 「? 何がですか?」 「陽与梨。 朝食を終えたら迎えに行くぞ。 陽与梨に会わせたい奴がいる」 そう言われ朝食後は権巌と一緒に城の門の前へとやってきた。 待っている間に陽与梨は聞きたかったことを尋ねようとする。 「・・・あの、権巌様。 お聞きしたいことがあるんですが」 「何だ?」 「私が『元いた場所へ帰る』と言った日、どうして私を止めなかったんですか? いつもならすぐに拒んで『ここにいろ』って言ってくるのに」 「・・・既に知っていたからだ。 陽与梨があの日帰るということを」 「え?」 権巌は戦へ出た日、その日は満月で夜は雷が鳴るという情報を既に得ていたそうだ。 権巌は本当に陽与梨を大事にしていたからこそ最後くらいは陽与梨の意見を尊重し止めなかったのだと初めて聞いた。 「ッ・・・」 それを聞いて心が揺らいだのは間違いない。 動揺している時畳みかけるように権巌は陽与梨の頬に手を添えた。 ビクリと反応する身体。 いつものように手を上げそうになるが身体の前で自ら手を制した。 「どうした。 俺を叩かないのか?」 「・・・叩きません」 「どうしてだ?」 「権巌様は私と出会って変わってくれました。 ・・・だから私も変わりたいんです」 そう言うと権巌は満足気に笑った。 「まだ俺のことが怖いか?」 「もう怖くありません。 ・・・ちょ、ちょっと!」 嬉しそうに陽与梨の髪を乱暴にかき回す。 それに対し怒っていると遠くから声が聞こえてきた。 「権巌様!!」 その声に二人は反応して顔を向ける。 そこには両腕のない奏思が走ってきていた。 「え・・・? 奏思くん!?」 「ね、姉ちゃん!?」 陽与梨と奏思は目が合うなり驚いた顔をする。 「よう、奏思。 仕事はきちんと果たしてきたか?」 「あ、はい! でもどうして姉ちゃんが・・・。 もう姉ちゃんとは会わせてくれないのかと・・・」 困惑している奏思の肩を陽与梨は優しく撫でた。 「奏思くん、生きていたのね!!」 「う、うん。 権巌様に助けられたんだ」 「そうなんだ・・・。 でも両腕がなくなって可哀想・・・。 痛くない?」 「少しはジンジンするけど大丈夫だよ」 「そっか・・・。 というよりどういうこと? 仕事、って・・・」 「奏思は俺たちのスパイとしてここで働いてもらうことにしたんだ」 「・・・え?」 子供で腕がないという理由で同情を誘い敵の情報を聞き出すといった仕事のようだった。 複雑な心境だったが奏思が無事だったことに何より安堵した。 ―――もう少しここにいてもいいのかもしれない。 ―――本当の気持ちは相手とちゃんと向き合わないと何も分からないんだ。 ―――これからはもっともっと権巌様のことを知っていきたい。 陽与梨は奏思を抱き締めた。 「・・・生かしてくれて、ありがとうございます」                            -END-
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