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侑生の言葉が一瞬理解できなかった。
「・・・それ、どういうこと!?」
「あれ、気が付かなかった?」
「私は何も・・・」
「あ、それはそうか。 あの子は陽与梨の真後ろにいたからね。 彼はナイフを隠し持っていたんだよ」
「ナイフ・・・?」
奏思の荷物チェックなんてしなかったため知る由もなかった。
「それって常に?」
「きっとね。 陽与梨が庇おうと権巌様を説得している最中に彼はそのナイフを陽与梨へ向かって突き立てようとしたんだ。 構えている方向から見れば致命傷は狙っていなかったのかもしれない。
陽与梨に怪我をさせてあの場を切り抜けようとしたのか、人質に取ろうとしたのか。 そのどちらにせよ陽与梨はただでは済まなかったはずだ」
「・・・!」
それを聞き陽与梨は走り出していた。
「陽与梨? 満月はもういいの!?」
最後まで陽与梨を気にかけてくれる侑生。 それでも陽与梨はやり残したことがあったため権巌の姿を探した。 まずは権巌の居室へ向かう。 すると権巌は居室の襖を開けながら満月を見上げていた。
「陽与梨か・・・」
「権巌様!」
権巌は陽与梨の姿を見るなり複雑そうな表情を浮かべる。
「俺に何の用だ?」
「・・・あの、ごめんなさい!!」
陽与梨は深く頭を下げた。
「何に謝っている?」
「侑生くんから聞きました。 奏思くんを切り付けたのは私を助けるためだって」
「ふん。 何のことなのかサッパリだな」
そう言って権巌はそっぽを向いた。 負けじと権巌の目の前に移動する。
「教えてください。 貴方のことを」
「・・・」
「ちゃんと理由があるんですよね? 理由があるからそういう行動を起こすんですよね」
「・・・」
「貴方はただ心のない殺戮機械のような人間だと思っていました。 だけどそれは違う。 そうすることにはちゃんと意味があるんだと私は知りました」
権巌は嫌そうに顔を満月のある方へと戻した。 それに伴い陽与梨も正面へと移動する。
「だからお願いです。 貴方のことを教えてください!!」
そう放った瞬間権巌の瞳が一瞬光った。
―――・・・今の光、もしかして雷・・・?
―――あぁ、きっと満月に雷が重なったんだ。
そう思うも自然と陽与梨の心は落ち着いていた。
「・・・いいのか?」
「はい」
「今を逃すと次いつ帰れるのか分からないんだぞ」
「それでもいいんです」
陽与梨は自分の後ろにある満月には一切目を向けず権巌を見つめる。
―――今なら権巌様の本当の気持ちがようやく分かりそうなの。
―――こんな大事な時に私情を通したくない。
「こんな中途半端な気持ちで私の居た世界へは帰りたくありません」
そう言うと権巌は少しの間考え陽与梨の腕を掴みグッと引き寄せた。
「なッ・・・」
「ならこれからもずっと俺の傍にいろ」
「・・・え?」
想像もしていなかった言葉に思考停止していると権巌は陽与梨の頬にそっと手を添えた。
「お前は出会った時から俺のものだ。 そうだろ?」
「だから違ッ・・・」
やはり慣れている権巌でも実際に触れられると相変わらず身の毛がよだち鳥肌が立ってしまう。 そしていつものように咄嗟に手を上げてしまうが、それは権巌によって抑え付けられた。
「俺の言動には意味がある。 そう言ったのは陽与梨じゃないか」
「・・・!」
「俺は何の考えもなしに陽与梨を自分のものにはしないぞ」
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