16人が本棚に入れています
本棚に追加
数時間後 権巌視点
―――どうして俺がここまでしないといけないのか。
―――・・・これもアイツのためだとか俺も変わったな。
結局陽与梨はあれから目を満月へ向けることはなかった。 元いた場所へは帰らず陽与梨は権巌の部屋で眠りについた。 眠った陽与梨を確認すると権巌は一人牢屋へと来ていた。
「だ、誰だッ!!」
コツコツと権巌の足音だけが響きそれが止まった時、威勢のいい声が届いた。
「よう。 目を覚ましたか」
一つの檻の前に立つと目の前には目を真っ赤にした奏思がいた。 訴えかけるように権巌を睨み付けている。
―――こう見ると悲惨なものだな。
―――もっといいように手当てをしておけと言ったはずなんだが。
奏思の両腕は先程切り落としたためなくなっていた。 奏思の服の袖は切られていて止血するために肩には包帯が巻かれている。 包帯には血が滲んでおり見るに堪えなかった。
「・・・何をしに来た?」
「食わないのか? 食わないと血にならないぞ」
そう言って床へ目を向けた。 牢屋の隅には粗末な食事が置いてある。
「はぁ? 両腕がない状態でどうやって食べろって言うんだよ!!」
「・・・」
「律儀に匙まで用意してくれてさ。 何? そこまでして僕の心を抉る気?」
『食事を与えてやれ』という命令は下したが『匙を付けろ』とまでは言っていない。 両腕がない状態で匙が出されれば侮辱されていると思ってもおかしくはない。
―――もっと食べやすいものを持ってこないと駄目だな。
「そもそも切ったのは片腕だけだったはずなのにどうして時間を置いてもう片方を切った!? 切るなら同時に切ってくれよ!!」
―――陽与梨のいるところで切ったのは片腕だけだった。
―――だが陽与梨が宴会所から去った後すぐに止血はしたんだぞ。
当然当時の記憶は奏思には残っていない。 奏思は痛さのあまり気絶していたが止血をしているとすぐに目を覚ました。 再び暴れ回ろうとしたため奏思のもう片方の腕も切り落としたのだ。
「おかげで二度も気を失ったんだぞ!? 短時間で二度も気を失うなんてもう身体が壊れる寸前だ!!」
「だけど貴様は今生きている」
そう言うと奏思は俯き首を横に振った。 権巌の考えがよく分からないといった様子だ。
「・・・もう僕を殺してくれ。 両腕がないなんてもう僕には生きる価値がない」
「・・・」
「そもそもどうして僕を生かしたんだよ!! 僕は敵だぞ!? スパイだぞ!? 僕を生かしていいことがあるとでもッ」
「どうして生かしたのか? それは貴様を殺すと陽与梨が悲しむからだ」
そう言うと奏思は大袈裟に溜め息をついた。
「何だよ、その理由。 納得しない・・・」
「事実だから仕方がないな」
「アンタは僕がスパイだと一目見た時から気付いていた。 そうでしょ?」
「・・・」
「それなのにどうして見逃してくれた? 一緒に楽しくカルタで遊んじゃったりさ。 子供だからって僕をからかったの?」
「見ての通りだ、子供だからとて俺は容赦しない。 だがそれも同じだ。 陽与梨が貴様と仲よくしていたからだ」
そう言うとあからさまに嫌な顔をされる。
「さっきから姉ちゃんの話ばかり・・・。 アンタと姉ちゃんは何なの? 夫婦なの?」
「・・・そうなりたいとは思っているがな」
「・・・」
気まずそうに視線をそらす奏思。 これからどうしたらいいのか分からない様子の奏思に権巌は提案した。
「貴様、ここで働かないか?」
「・・・は?」
「そうしたら陽与梨も悲しまない」
「また姉ちゃんの話・・・」
「それ程陽与梨は貴様のことを大切にしていたということだ。 もっとも俺は貴様のことは許さないけどな」
―――コイツは陽与梨を傷付けようとした。
―――それはこれからも許すことはない。
「・・・さっきから姉ちゃんの気持ちばかりじゃん。 アンタの気持ちや意見は一切ないわけ?」
「陽与梨と出会う三ヶ月前ならとっくに貴様を殺している。 命拾いしたな」
「・・・」
「で、どうするんだ? そもそも貴様は両腕がなくなりもうスパイなんて仕事はできないはずだ」
奏思は少し考えてから口を開いた。
「・・・いや、両腕がなくなった僕にできる仕事なんて」
「ある。 貴様にピッタリの仕事がな」
最初のコメントを投稿しよう!