お腹が空いたら

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「今日の依頼は、兵庫県の住宅街に出没する黒い人型の怪物を退治してほしいという内容だけど、どうする?」 「黒い人型って、それ、幽霊じゃない?」 「飼い犬が襲われたって個人からの依頼だから、幽霊ではないと思う」 「ワンちゃんん!? 食べられちゃったの?」 「警察に相談したけど、対応してもらえなかったらしい」 「ひどいよね、大事なワンちゃんだったろうに」  西宮彩希は高校卒業後、毎日、調理の実習のある専門学校に進学した。  彩希のあまりの食いしん坊ぶりに、大学より調理学校の方がよいかもしれない、と意外にも両親が納得してくれたのだ。  実習の後はもちろん実食があるわけで、食べる事が大好きな彩希にとって調理が学べてお腹も満足と一挙両得な進学先なのだが、チバケンと組んで専属イーターの仕事も請け負っている。  チバケンの本業と彩希の学校に差しさわりのない金曜と土曜の夜、二人は依頼を受けた怪物退治に出動する。  周囲からは付き合っている、と誤解を受けているが今のところは恋愛感情より喰い気のほうが勝っている。  なにしろチバケンといれば美味しい怪物でお腹を満たせるのだ。 「人型の怪物、食べるの抵抗ないのか?」 「ジンジャーマンだと思えば平気」  彩希は自前の調味料セットを収めたポーチを大事そうに抱えて助手席に乗り込んだ。 「あいかわらずポジティブだな」 「なんとなく皮肉なイントネーションを感じるんだけど」 「いえ、頼もしいと言ったんです」  横目でにらんでくる彩希に、チバケンはあわててギアを入れ車を発進させた。 「今日は合鴨のローストと甘えびのソースを実習で作ったんだけど、大きなお皿にポッチリ載ってるだけなの。パンとスープが付いたとしたって、あんなんじゃ腹は膨れないのよ」  と彩希は今日の実習で習ったフランス料理の話をした。 「そうだろうな。まあ、これから腹いっぱいメイン料理を喰えると思って我慢してな」 「うん、楽しみ!! いつまでもあたしを養ってね、チバケン」 「…!」  なぜか動揺するチバケンの横顔を見上げ、彩希は笑った。 「ああ、お腹空いたなあ、もっと飛ばしてよ、チバケン」  「お、おう」    怪物退治者と専属イーターの二人は今夜の獲物を狩りに夜の中へと消えて行った。        
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