上京の胸中

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僕と大きな荷物が、電車に揺られている。 窓から見える景色は、見慣れた風景。 僕は今日、東京へと旅立つ。 故郷を離れる。 18年間いた故郷を。 実家の最寄駅で電車に乗る前に、 小学校からの友達2人が見送りに来てくれた。 「東京の大学でも、頑張れな。」 「いつでも、寂しくなったら帰ってきていいんだぞ??? 冗談だよ。がんば。」 笑顔で2人は言った。 「おおよ。」 と言って、電車に乗った。 それも、3分前の話。 両親からも似たようなことを言われた。 「あんたはあんたらしくやってきなさいな。」 「いってきな。」 と、2人は言った。 母からは中学生と高校生の昼ごはんとして、よく持たされた、おにぎり二つ渡された。 飽きるほど食べたおにぎりだ。 見慣れた景色が過ぎ去っていく。 …そうか…知らないところへ、行くのか。 トンネルに入った。 このトンネルを抜けると、もう僕の県の県庁所在地へと出る。 段々と腹が立ってきた。 そもそも、何を頑張れというのだろうか。 当たり前だ。 この田舎からの自分だけの挑戦だった。 自分の真面目さ故に、取れていた"そこそこ"の評定を使って、都内の有名大学に合格することは。 徹夜を何度もして、なんとか勝ち取った合格。 きっと、自分よりも頭のいい人たちがたくさんいるのだろう。 ましてや、東京なんて修学旅行でしかいったことない。 全てがわからない俺は、頑張るしかない。 一人暮らし、大学の勉強、友人関係…。 なのに、「頑張れ」って。 当たり前だ。 頑張らなくてはならないところに行くんだ。 電車がトンネルを抜けて、急に明るくなる。 眩しさに驚き、思考が中断された。 窓の外の景色を見た。 もうすぐ着くな、と思った。 東京までは、ここから新幹線で行く。 むしゃくしゃする心を抱えたまま、新幹線に乗り換えた。 なぜか、数分しか止まらない新幹線にイライラしたりしていた。 新幹線に乗り、席に着いた。 荷物を足元に置き、席に腰を下ろした。 出発した。 地元の都心の景色でさえも、 過ぎ去っていく。 "地元を離れる"ということが現実として、 はっきりと実感できた。 その実感と共に、言葉にしがたい感情が胸の中に流れ、溢れそうになった。 逃げるように、荷物を開け、慣れた手つきで、母から渡されたおにぎりの包みを開ける。 ベタだ。 あまりにベタだ。 泣きそうになった。 必死に堪えた。 頭によぎる一つのこと。 このおにがりが"最後のおにぎり"になるかもしれないってこと。 見慣れたおにぎりが、東京ではもう食べられない。 潰れていた日もあった。 またこの中身かよ、と文句を言う日もあった。 歯を食いしばった。 泣くもんか。 本当は、寂しい。 親から離れること、友達からも離れること、地元から離れること。 それに、不安で一杯だ。 学校の勉強についていけるか、1人で暮らせるか、友達ができるか。 ただ、それでも知らないところへ行ってみたかった。 苛立ち、寂しさ、不安、たくさんの感情が混じり合って、わからなくなった。 それでも時間は過ぎて、東京へと近づいていく。 「やれるだろうか。」 そう呟いて、歯を食いしばり、おにぎりを食べた。
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