お腹が空くなんて感覚、もうわかんない

1/1
前へ
/4ページ
次へ

お腹が空くなんて感覚、もうわかんない

 ざぁぁっと、窓から吹き入った潮風が聖愛(まりあ)の髪を揺らした。プラチナからダリアパープルに変わるその髪の毛はいつも通りツインテールに結ばれていて、風の影響をもろに受ける。毛先が暴れているのも気にせず、聖愛はすぅと息を吸い込む。 「♪開け放たれた この部屋には誰もいない  ♪潮風の匂い 滲みついた椅子がひとつ」  彼女の腰に着けたスピーカーからは、彼女の歌に合わせてメロディーが流れている。これも聖愛の異能力の一つだった。  {偶像兎の醒めぬ夢(ザ・アイドルラビット)}。音を司るその異能力が存在していることこそ、マリアが“天使”であることを示している。 「♪あなたが迷わないように 空けておくよ 軋む戸を叩いて  ♪なにから話せばいいのか わからなくなるかな」  聖愛は窓枠に両手を付き、そして海に向かって歌を続ける。  ルーナ・ラウィック。我楽多が組み合わさって作られたこの歪な城は、現在その機体をガシガシと組み替えて尾びれを作り海を遊泳している。ルーナが次の国に着くまで、空を飛ぶより海を渡る方が早いらしい。最近の空は鉄梟(エネミー)が多くて困る。可動式の鉄の翼の着いた鎧に身を纏った人間の兵士達は、ルーナの吐き出す蒸気の音を聞き付けてどこからともなくやって来ては、ルーナに暮らす天使達を片っ端から拉致しようとする。彼等も生活がかかっているから仕方が無いとはいえ、三日連続で襲撃された時は流石に聖愛も笑顔を引き攣らせた。ルーナの“管理人”であるカインとアベルも三日連続の襲撃には流石にウンザリしたようで、対応がどんどんテキトウになっていた。最終的に戦況を傍観していた淳蔵(あつぞう)の部屋に侵入した鉄梟(エネミー)が髪の手入れ中だった彼を襲い、髪の手入れに何より力を入れている彼が激昂したことによって纏めて微塵切りにされて襲撃は終わった。風を操ることの出来る淳蔵が鉄梟(エネミー)の鉄の翼が稼働出来ないほどの強風で地面に叩き落していった姿は圧巻だった。風の刃によって切り刻まれた人間だったものに対しカインは『ナイス微塵切り』と指を鳴らし、アベルはポンと聖愛の肩を叩いて『片付けよろしく』とちゃっかり仕事を押し付けてきたから聖愛は内心アベルに中指を立てたのは内緒である。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 挿入歌:海の幽霊 作詞:米津玄師 作曲:米津玄師
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加