第22話 蝴蝶の悪夢

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 けれど生きていれば、また楽しいことがやってくるように、生きて、生きて、生きて──それからフランの元に逝こう。  グラシェ国から出て祖国に戻ろう。ふと脳裏に浮かんだ。 (若葉の生い茂る森で……ひっそりと暮らしながら──)  不思議と青々とした森にひっそりと佇む一軒家が脳裏に浮かんだ。全く知らないはずなのに、懐かしいと感じる。  あの場所に帰りたい。  ()()()()──()()()()()?  誰と?  なにか思い出せそうな気がしたけれど、霧散してしまう。  気づけば足が上手く動かなくて──雪の上に倒れ込んでしまった。  あまり痛くはなかった。  冷たくも、寒くもない。 (……あれ、おかしいな。体がまた……うごかな……) 「──ア、──ビア」  声がした。  私を呼ぶ声に、ドキリとした。  ああ、また夢の中に戻った。  夢の中のセドリック様はとても優しかった。私を抱き上げて、力いっぱい抱き寄せてくれる。  温かい。都合のいい夢の続き。 「オリビア、ダメだ。私を一人にしないと約束しただろう」 「独りじゃないでしょう」とか「赤髪の女性と幸せに」と言えればよかったけれど、でもそんなことはもうどうでもよくて──思い出すのはセドリック様によくしてもらった、幸福だったころの記憶ばかり。  とても幸せだった。  愛されているということがこんなにも愛おしくて、甘くて、温かくて辛かった過去すら包み込んで、前が見えるようになるなんて思いもよらなかった。  自分を大切にできる。  周りの人たちを、もっと大切に思えるようになる。  ずっと私がほしかった、望んでいたものを──セドリック様はくださった。  夢の中でも構わない。  それでも私は救われた。 「セドリック様、……幸せでした。私を見つけてくださって、受け入れてくれて……ありがとう……ございます」 「オリビア、そんなこと言わないでください。ようやく、一緒になれるのに、やっと────が、解けるのに──」  頬に零れ落ちるのは──セドリック様の涙だった。  どうして泣いているの。  泣かないで。  悲しまないで。  笑っていてほしいのに。  大丈夫、死のうとなんて思ってないもの。ちゃんと生きるって、決めたもの。
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