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にんげんたべたい
あーあ。今日も一人ぼっち。お父さんがどこかに行ってしまってからクラスメイトも僕に声をかけない。お父さんがいなくなる前の日まで、優くんも幹ちゃんも仲良く遊んでいたのに。友達と話さなくなって一年。学校で声を出すのは、先生に当てられたときか先生に声をかけられたときだけ。どうしてそうなったか? 僕のお父さんが犯罪者だかららしい。お母さんは教えてくれないけど、お父さんはオリの中にいるらしい。ニュースにもなったって、クラスメイトがこそこそ噂話をしていたのが聞こえてた。
「お腹空いた……」
なんだかもう給食を食べる気も失せて、ここ半年食べてない。給食の時間、僕は何にも乗ってない机を前にただ黒板を眺めている。クラスメイトたちは嫌がったけど、先生は好きにさせなさいと放っといてくれた。
みんなが本当は僕と話したいの分かってるけど、大人の事情ってやつなんだろう。町を歩いても聞こえてくる。お父さんがやった犯罪のために僕も反省しなきゃならないらしい。
放課後、一人橋の下で過ごすことが増えた。橋の影に隠れていると世の中から僕の存在が消えたみたいで安心する。死ぬのってどんな気持ちなんだろう。お母さんが悲しむと思うと死ぬ気にはなれないけど。
今日もいつも通りに橋の下に向かうといつもと違う光景がそこにあった。黒い小さなものが何かを呻いていた。
「猫?」
僕はそれを撫でてみる。
「冷たい!」
僕は慌ててその子を抱き上げた。
「死んじゃ駄目だ!」
生き物は死ぬと冷たくなる。僕はそれを知っていた。だからその子も死にそうなんだと感じたんだ。
フゥフゥと荒い息遣いだ。どうすれば?
「お腹……空いた……」
その子は小さな声で呟いた。まるで子供のような声だ。猫じゃないの?
「待ってて! 連れてく!」
足も手も顔もよく分からない黒いその子を抱き上げて僕は駆け出した。家まで連れて帰れば冷蔵庫に食べ物はある。お腹空かせて死んじゃうなんて絶対駄目だ。
「あら、あの子……」
「ニュースの……」
「何持ってるの?」
「関わらないようにね……」
僕に向けられる町の声。いつもだったら悲しくなるのに今日はそんな暇はない。死んじゃいそうな何かを救うために僕は駆ける。誰かに声をかけられることはないから真っ直ぐ帰られる。今だけは、そのことに感謝した。
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