リザベル、困惑する

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 しかし考えてみたら、相手は獣王国の国王陛下なのだ。しかも若く美しいだけでなく、心優しく聡明な王らしいという噂は、隣国であるヴィオナ皇国にまで(とどろ)いている。    平民と思われている、特別美人でもない自分なんかに手を出すような真似、この人がするはずもない。  そのことに胸が少しだけ痛んだ気がしたけれど、それには気付かないふりをした。 ***  香油を使ってマッサージをすると言ったものの、直接背中に触れられるほど、リザベルは男性慣れしてはいなかった。  そのため腕や首筋、肩にのみ触れ、体をほぐしていくことにした。  ラベンダーの香りのキャンドルに火を灯して香油を手に取り、ヴォルフの体に優しく伸ばしていく。  初心なリザベルにはこの程度の接触もかなり刺激的だったけれど、獣医師としてのプライドを総動員してその動揺はキレイに包み隠した。  意外にもヴォルフとの会話は楽しく、あっという間に時間が過ぎ去った。  マッサージを終えて退室するタイミングで、リザベルは笑顔で告げた。 「これは私が幼い頃に、お母様がよくやってくれたおまじないなのですが……」  ヴォルフの白銀色の前髪を優しくかきあげて、コツンと額に額を合わせるリザベル。 「もうすぐ陛下を夢の国にいざなってくれる馬車が、お迎えに来てくれますから。だから、ヴォルフ国王陛下。何も心配することなく、ゆっくりおやすみください」  両手で頬を包み込み、リザベルがまじないの言葉を口にすると、ヴォルフは大きく瞳を見開いた。 「ステキな夢が、見られますように」  頬から手を離し、立ち上がろうとするリザベル。  しかしその瞬間、リザベルの手首を戸惑ったような表情のままヴォルフが掴んだ。
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