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リザベル、困惑する
「陛下、失礼いたします。リザベル嬢が、香油とキャンドルをお持ちくださいました」
執事長とともに再び訪れた、ヴォルフの寝室。
昼間とは異なり、寝巻き姿となったその色気は、とどまるところを知らない。
女の自分よりも色っぽいって、どういうこと!?
そんなふうにリザベルが自信を喪失し、憤慨するのも無理がないほどの破壊力。
しかし貴族として転生し、未来の皇太子妃となるべく育てられてきたため、リザベルはそんなことはおくびにも出さずにただ執事長の隣で静かにほほ笑んだ。
「キャンドルと、香油だと? そんなものに、どれほどの効果があると言うのだ?」
人を小馬鹿にしたような、冷めた口調。
かわいそうに思い、少しでも役に立てたらと考えたリザベルの気持ちを踏みにじるような発言に、怒りがふつふつと沸いてくるのを感じた。
「たしかにそこまでの劇的な変化は、ないかもしれません。ですがせっかく良かれと思って持ってきて差し上げたというのに、その言い草はないのではありませんか?」
口をついて出た、失礼がすぎる言葉。さすがにこれは、まずいことをしてしまったかもしれない。下手したらこんなの、首と体が永遠に泣き別れになってしまう!
我に返り、蒼白になるリザベル。執事長が、ふたりの会話に割って入ろうした。
しかしヴォルフは気を悪くするどころか、申し訳なさそうに慌てて謝罪の言葉を口にした。
「たしかに、君の言うとおりだ。今のは完全に、俺の八つ当たりだ。……すまない」
予想に反して素直に謝られ、リザベルは拍子が抜けた。そしてそれと同時に、肩の力が抜けるのを感じた。
「いえ、こちらこそ申し訳ございませんでした」
あまりにもヴォルフが情けない表情をしていたものだから、謝罪の言葉を口にしながらもリザベルがクスクスと笑ってしまったのも、仕方のないことと言えよう。
「では私はこれで、失礼いたします。リザベル嬢、あとはよろしくお願いしますね」
生暖かい笑みを浮かべて執事長が退室すると、室内にはリザベルとヴォルフのみになってしまった。
夜の寝室に男性とふたりきりという状況は、あまりよろしくないかもしれない。
まさか執事長が出ていくとは思っていなかったため、リザベルはまたしても少し戸惑った。
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