♯10 Reyと私

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 ◆ 「俺、まだしばらく練習するから」  そう言う七瀬くんを室内に残して、私と水樹くんと町瀬くんは先に帰る事になった。 「じゃあ、澪ちゃん。期待しとくからな」  七瀬くんが人差し指を私に向けながら挑発的な笑みを浮かべる。 「おい、プレッシャーかけんなって」水樹くんが呆れたように言う。  それから「さ、帰ろうぜ」と私の肩に軽く手を回してきた。  そのまま右手でドアを閉め、左手で私の体を押しながら歩き始め、しばらくして手を離す。  水樹くんらしい自然かつさり気ないボディタッチだった。  そんな風にされて私が緊張している事に、彼は気づいていないに違いない。  普段、水樹くんは男慣れしていそうな女子に囲まれているから、こんな軽い接触ぐらいで動揺してしまう女子の存在なんて信じられないと思う。  町瀬くんを先頭に私たち3人はメメントホールを出た。  (よい)の風が冷たい。  前を歩く町瀬くんの体が少し震えたかと思えば、リュックを肩から外し、中からネックウォーマーと手袋を取り出していた。  防寒具をつけるのを忘れていたらしい。  しばらくした時。 「それにしても、桜井がReyに関わる日が来るとはなぁ。本当にびっくりだよ」  水樹くんが星空を見上げながら、しみじみと呟いた。 「ま、まだ入るって決まった訳じゃないよ! びっくりしたのは私の方だよ……。よく聴いてたReyが、まさかこんな身近に居るバンドだったなんて」 「桜井。これは運命だよ!」 「へ!?」 「俺がReyに入ったのが春休みの頃なんだ。それからすぐの入学式の点呼で、自分のバンドと同じ名前の子が呼ばれるのを聞いて、思わず注目してたら、その子がこうしてReyにやって来るんだもんなぁ。縁を感じるよ」  そういう事なんだ、私は密かに合点した。  Reyと澪――。“れい”繋がりで、平凡な部類であるはずの私の名前が、水樹くんには特別な響きをもって聞こえた。  だからあの時、『良い名前』だと言ってくれた。入学式の日から私の事を知っていてくれた。  もしかしたら入学式で私に一目惚れしてずっと気があって……みたいな少女漫画的シチュエーションを一時は妄想したけれど、別にそういう訳ではなさそう。  ともかく、また新たに疑問が氷解する思いだった。  七瀬くんが初対面の私に『いい名前してんじゃん』と言ったのも恐らく同じ理由。 「なんかダジャレみたい」  運命だとか、縁だとか、真正面からロマンチックな事を言われて、照れ隠しから私はそんな風に茶化してしまった。
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