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それがこの、夜が明ける。
結果は上々。私を勧誘しようという流れになったのかもしれない。
「でも、私、作曲なんて……」
すんなりとは受け入れ難く、消極的な言葉が出てしまう。
すると町瀬くんが――。
「Reyの最後のピースは桜井しかいないと俺は思ってる」
私に対する熱い想いが伝わってきた。
「今日は澪ちゃんを勧誘する為にここに呼んだわけだが……。返事はすぐにとは言わない。じっくり考えて答えを出して欲しい」
俊さんがそう言って再び楽器を手に取った。
「ここは俺たちがメインで使ってる練習場所の1つでね。みんな用事があるから、だいたい集まるのは週末になるけど、たまにこうして平日に1人で練習する事もあるんだ」
練習の様子を私に紹介するように俊さんが楽器を弾き始める。
アンプからパワフルな低音が連続的に響き、室内に木霊する。
「七瀬俊。Reyのリーダー兼ベース担当で、俺たちと同じ高校1年生」
水樹くんが俊さんの事を目で指しながら隣から話しかけてくる。
そうなんだ、私は頷く。
これまでに聴いたReyの曲を思い出す。
いつも歌声の後ろでは力強い低音が鳴り響き、曲を支えていた。
それらの音は、目の前にいる彼の指によって紡ぎ出されてきたもの――。なんだか感慨深い。
不真面目そうな外見とは裏腹に俊さん……七瀬くんは、とても熱心に練習に打ち込んでいた。
暖房の効きが弱く、室内が薄ら寒いにも関わらず、顔は上気し、頬を汗が伝う。
「アイツ、本当は音楽も楽器もからっきしダメなんだぜ。だから、ああして誰よりも練習する」
「そうなの?」
私は不思議な気分だった。
自分でバンドを設立して活動するぐらいだから、楽器の演奏に自信があったり、音楽への理解が深かったりするものなのかと思っていた。
「水樹くんは何の楽器を?」
「ギター」右手の指先を動かしてギターを弾く真似をしてみせる。
「メンバーは全部で何人いるの?」
「今のところ6人だな」
「じゃあ、あと3人、顔も名前も知らない人たちがいるんだ」
「そうなるな。ちなみにうち2人は同じく福岡住みの高校生で、残り1人は東京に居る中学生」
「東京の中学生!?」
気がつけばReyの正体を受け入れ、興味深そうにいろいろと尋ねてしまっている自分がいた。
あらかじめ抱いていた疑問が解け、“私がここに呼ばれた理由”も理解できた。
あとは私がどう答えるか――。
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