♯10 Reyと私

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 それがこの、夜が明ける。  結果は上々。私を勧誘しようという流れになったのかもしれない。 「でも、私、作曲なんて……」  すんなりとは受け入れ(がた)く、消極的な言葉が出てしまう。  すると町瀬くんが――。 「Reyの最後のピースは桜井しかいないと俺は思ってる」  私に対する熱い想いが伝わってきた。 「今日は澪ちゃんを勧誘する為にここに呼んだわけだが……。返事はすぐにとは言わない。じっくり考えて答えを出して欲しい」  俊さんがそう言って再び楽器を手に取った。 「ここは俺たちがメインで使ってる練習場所の1つでね。みんな用事があるから、だいたい集まるのは週末になるけど、たまにこうして平日に1人で練習する事もあるんだ」  練習の様子を私に紹介するように俊さんが楽器を弾き始める。  アンプからパワフルな低音が連続的に響き、室内に木霊(こだま)する。 「七瀬(ななせ)(しゅん)Rey(うち)のリーダー兼ベース担当で、俺たちと同じ高校1年生」  水樹くんが俊さんの事を目で指しながら隣から話しかけてくる。  そうなんだ、私は頷く。  これまでに聴いたReyの曲を思い出す。  いつも歌声の後ろでは力強い低音が鳴り響き、曲を支えていた。  それらの音は、目の前にいる彼の指によって紡ぎ出されてきたもの――。なんだか感慨深い。  不真面目そうな外見とは裏腹に俊さん……七瀬くんは、とても熱心に練習に打ち込んでいた。  暖房の効きが弱く、室内が薄ら寒いにも関わらず、顔は上気し、頬を汗が伝う。 「アイツ、本当は音楽も楽器もからっきしダメなんだぜ。だから、ああして誰よりも練習する」 「そうなの?」  私は不思議な気分だった。  自分でバンドを設立して活動するぐらいだから、楽器の演奏に自信があったり、音楽への理解が深かったりするものなのかと思っていた。 「水樹くんは何の楽器を?」 「ギター」右手の指先を動かしてギターを弾く真似をしてみせる。 「メンバーは全部で何人いるの?」 「今のところ6人だな」 「じゃあ、あと3人、顔も名前も知らない人たちがいるんだ」 「そうなるな。ちなみにうち2人は同じく福岡住みの高校生で、残り1人は東京に居る中学生」 「東京の中学生!?」  気がつけばReyの正体を受け入れ、興味深そうにいろいろと尋ねてしまっている自分がいた。  あらかじめ抱いていた疑問が解け、“私がここに呼ばれた理由”も理解できた。  あとは私がどう答えるか――。
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