第12話 幕間

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第12話 幕間

「ソフィア……君はいったいどこへ……」  ため息とつぶやきが、青空に吸い込まれて消えていく。  ソフィアが王国から姿を消し、行方不明になってから一ヶ月。  それでも彼――フィロだけは、ソフィアの行方を探していた。 「もうソフィアはいないんだからいいじゃないか」 「そうですよ。あの魔物を惹き寄せる女がいたら王国は危険に晒されていたかもしれない。王都からいなくなったことで平和が取り戻せたなら安いものですよ」  フィロの率いるパーティーの面々は、そんな言葉をかけてフィロを説得し、励まそうとするが、彼はどうしてもソフィアを諦めきれなかった。  彼が独自に調査し、入手した手がかりは、まずソフィアの残した手紙。 『今までたいへんお世話になりました。この宿屋からチェックアウトして、他の宿屋へ移ろうと思います。最後に直接お別れの挨拶ができず、申し訳ありません。フィロさんにはどれほど感謝の言葉を尽くしても足りません。どうか、貴方を蝕む呪いが解けますよう、お祈りしております。さようなら』  この手紙はソフィアが宿屋を旅立ったときにフィロの部屋のドアに挟まれていたものだ。  これによって、ソフィアが宿屋からいなくなったことが発覚した。よほど責任を感じていたのだろうと、フィロの心が痛む。  しかし、フィロが王都中の宿屋を探しても、彼女がチェックインした宿屋は見つからなかったのである。  そのことから、ソフィアは実際には他の宿屋に移ったのではなく、王都から出た可能性が浮上した。フィロ以外の人間はみんな喜んだが、フィロはまったく納得がいかなかったのである。  ソフィアが王都を出たとして、次はどこへ向かったのか?  ここで次の手がかり、ソフィアの目撃情報である。 「赤い鴉を肩に乗せた、顔に傷のある女が王都の出入り口の門に向かった」という証言を得たのだ。  赤い鴉は「ガーネットクロウ」という、魔王の遣いとされているモンスターだ。  ソフィアは何らかの手段で魔王に操られたのでは、と推測したフィロは、王都の門番に話を聞きに行った。  しかし、ここでさらに妙なことが起こる。 「あの夜は門番をしていたら急に眠くなって、門の前で居眠りをしてしまった。だから、詳しいことは俺たちにもわからない」  それが門番の語った話である。しかし、門番は二人いたのに、突然どちらも眠ってしまったことに、フィロは違和感を覚えたのだ。 (もしや、何かの魔法で眠らされたのでは……?)  赤い鴉のことも考えると、王都のすぐ近くに『夜の支配者』――魔王ナハトがいた可能性が高い。その事実も王国にとっては身震いする話だが、それよりフィロにとって重要なのは、ソフィアがナハトに連れ去られたかもしれないということである。  魔王がソフィアをどこかに連れて行くとしたら、それは王国の東にある魔国マーガであろう。  そこまで推理したフィロは、王城に向かい、国王に「魔国に斥候を出すように」と進言したのだ。 「魔国の者に王国の人間がさらわれたというのは、王国の守りとして欠陥があります。ましてやあの魔王が王都の近くまで接近できるという事実は大問題です。すぐに斥候を向かわせて、魔国の動きを監視すべきです」  そして、国王を説得したフィロは、自らも斥候団の中に入り、魔国への潜入を開始したのであった。 「フィロさん、アンタ魔王の呪いを受けているんだろう? そんな状態で大丈夫なのかい?」 「皆さんの足は引っ張りませんよ。僕は武器も握れない不便な身体ですが、それでも囮くらいの役には立ってみせます」 「アンタみたいなやつを勇者っていうんだろうな。女ひとりのために、そこまで身体を張れるなんて、アンタ漢だぜ」  斥候団と一緒に魔国に潜り込んだフィロは、ハリボテの角がついたフードを深く被って、魔族になりすまして魔国の街に入り込んだ。  そこは城下町ということもあり、魔族の立ち話を簡単に聞くことが出来た。 「なあ、知ってるか? 武闘会で優勝したニンゲンの女の話」 「ああ、ソフィアちゃんな。可愛いよな。いい匂いするし」 「ニンゲンなのに魔族とタメ張れるなんて痺れるよなあ。ありゃ、まさしく魔王陛下の嫁にピッタリだぜ」 「これから花嫁修業とかするのかなあ。婚姻の儀が楽しみだな」  フィロは一気に混乱の渦に叩き落された。  魔族の話を整理すると、ソフィアは魔国の武闘会で優勝し、魔王の花嫁になるらしい。  ……いや、なんで?  わけがわからないながらも情報を得た斥候団は、そのまま王国へ引き返し、国王に報告した。  そして、フィロの進言により、彼をリーダーとして冒険者たちで構成された魔国攻略部隊が組織されることになった。  魔国攻略部隊は、ソフィアを救出するために装備を整え、戦闘訓練を積んで魔国へ乗り込む準備を進めるのであった。 (ソフィア……待っててくれ。もうすぐ君を助け出す!)  一方その頃、ソフィアはナハトと少しずつ絆を深めていくのだが……それはまた別の話である。 〈続く〉
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