第19話 魔寄せの娘、最終決戦に挑む

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第19話 魔寄せの娘、最終決戦に挑む

「死ね死ね死ね死ね! 僕の思いどおりにならない世界なんか滅ぼしてやる!」  怪物と化した――いや、本来の姿に戻ったモルゲンは怒り狂って暴れ叫ぶ。  いまや、勇者と魔王の立場は逆転した。勇者は世界を破滅に追いやろうとし、今度は魔王がモルゲナ王国の人間たちを守るため、その暗黒の大剣を手に取り振るう。  ソフィアは魔王ナハトと手を取り合い、ともに勇者を倒すため、最後の戦いに挑む――。 「ガァァァァァァ!!!」  モルゲンは手当たり次第に光の聖剣で陽光を圧縮したビームを放つ。 「ひぃぃ!」  そのビームの一筋が王国民に当たりそうになる。  ただの人間がそれを喰らえば、一瞬で身体が蒸発してしまうだろう。 「――『クイック・アップ』」  ナハトは魔法で機動力を上げ、瞬足で王国民の前に立って、暗黒の魔剣でその光を吸収する。王国に被害が出ないように守っているのだ。  さらに、王都の門がビームで崩れたところにも瞬間移動し、魔剣で崩れ落ちる石材を振り払う。 「ハァァッ!」  モルゲンがナハトに注意を向けている隙にソフィアは素早く勇者の背後にまわり、その頭に向かって空中回し蹴りを放つ。  が、頭に命中する寸前にモルゲンがグルンっとソフィアの方を振り向き、その手がソフィアの足首を掴む。そのままソフィアを振り回し、王都の外壁へと投げ飛ばす。 「ソフィア!」  ナハトがいち早く反応し、ソフィアが外壁に激突する前に彼女の身体を受け止める。 「クソッ、防戦一方で手が出せない……!」  ソフィアはギリっと歯噛みする。  魔王とソフィアの様子を困惑しながら眺めていた王国民だったが、どうやら魔王が王国を守ってくれているらしいと理解した。  しかし、王国騎士団はナハトとソフィアを取り囲み、武器を構える。 「……どういうつもりだ、王国騎士団」 「国王陛下は勇者モルゲンに加勢して、魔王ナハトを討ち滅ぼすようにとのご命令だ」 「正気か!? 今の状況を見てみろ、その勇者が王国を、世界を滅ぼそうとしてるんだぞ!?」  ソフィアの叫びもむなしく、騎士団は剣を抜いて二人に刃向かう。  モルゲナの国王はモルゲンを盲信しており、勇者の真の姿を見ていないので現在の戦況を知らないのだ。 「フン、最悪の状況だな。モルゲンに加えて、王国騎士団まで相手にせねばならんとは」 「ナハト、私は騎士団に対応する。お前が人間を殺すのはまずいし、私ではモルゲンを相手取るには力不足だ」 「賢明な判断だな。では、その手筈通りに」  そのとき不意に、王国騎士の鎧にコン、となにかが当たった音がした。  見れば、王国の人間の子供が、モルゲンと王国騎士団に石を投げつけている。 「何が勇者だよ、何が騎士団だよ! どう見ても魔王が王国を守ってるじゃん! 勇者に憧れてたのに、こんなやつだなんて思わなかった!」  石を手に握る少年は、目に涙を溜めていた。  その子供に共感したのか、他の子供達も次々に石を投げ始める。  大人は慌てて止めようとするが、モルゲンはギロリと子どもたちを睨み付けた。  モルゲンの怒りの矛先が子供に向かったことを察知したナハトは、子供と勇者の間に立ちはだかった。 「勇者よ、子供の言うことにいちいち目くじらを立てるなど、大人げない。器の小さい男よな」 「うるせぇ! 僕をバカにした奴らは皆殺しにしてやる! 子供だって例外じゃない!」  皆殺し、という言葉に怯える子供の頭を、ナハトは優しく撫でた。 「大丈夫だ、ニンゲンは俺が守ってみせる」  魔王のその言動に、モルゲンの怒りは爆発した。 「魔王のくせに善人ぶるな! 人間のくせに僕を崇めない奴らなんか要らないんだよォ!」 「フン、本性を顕したな」  そこからは、ナハトとモルゲンの激しい剣戟であった。  ナハトの暗黒の魔剣と、モルゲンの光の聖剣が、キンキンキンキンと金属音を立ててぶつかり合う。  魔剣は光を吸収し、聖剣は闇を打ち払う。相克の関係を持つ二振りの剣が、どちらかを破壊するまで終わらない。 「王国騎士団、何をぼさっとしてる! ソフィアを縛り上げろ! その女を人質にすれば、魔王も身動きは取れない!」  モルゲンの言葉に王国騎士団はハッとする。ソフィアと一緒に、ぼうっと魔王と勇者の戦いを眺めていたのだ。何しろ、魔王と勇者が直接対決するなど、神話や伝説の中だけの話だと思われていたものが、目の前で展開されているのだ。それは、騎士の憧れの光景とも言える。 「ソフィアに手を出すな!」  ナハトがソフィアに目を向けた瞬間にモルゲンが振りかぶり、光の聖剣が暗黒の魔剣を斬り折った。  モルゲンが勝ち誇った顔でナハトの喉元に聖剣を向ける。 「ハハッ、ここで終わりだ、魔王! 今度こそ息の根を止めてやるぞ! そして魔国も、僕をバカにした王国も、すべて根絶やしにして、この世界を滅ぼしてやる!」  すべてが終わりだと思われた、そのとき。  一羽の赤い鴉がソフィアのもとに飛んできた。  ソフィアが手を伸ばすと、その指先に鴉が止まる。 「どうやら、間に合ったようだな」 「……?」  ソフィアの発言の意図が理解できないモルゲン。  しかし、耳をすませば、遠くから、四方八方から、ドドドと何かがこちらに向かってくる地響きが聞こえてくる。 「……ソフィア。お前、何をした?」 「お前の言う『ギフト』を有効活用しただけだ」 「ま、さか」  それは、モンスターの群れであった。  実は、ソフィアが宿屋に軟禁されていた時、彼女は毎夜祈っていた。  宿屋の屋根に止まったガーネットクロウに『魔寄せの力』を送り、鴉たちを王国の各地に飛ばして、王国のあちこちに点在していた魔族や魔物を王都に呼び寄せていたのだ。  王国中の魔物の群れに、モルゲンは恐れをなしていた。  その数、ざっと五百万体。  いくら勇者でも一度にここまでの物量を相手にしたことはない。 「さようなら、勇者モルゲン。お前の伝説はここで終わりだ」 「ソ……ソフィアァァァーーーー!!!」  モルゲンは魔物の群れに襲われ、押しつぶされて死んだ。  それが勇者の最期であった。 〈続く〉
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