余は国王である

4/4
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
「で? 国王様。こちらの書類はいかがします?」  完食を見届けてヒラヒラと封筒を見せてくる。アホな事は言ってるけど、本気で心配してくれているのもわかってる。俺が辞めてもあの会社は何か変わるわけじゃない。代わりの生贄を用意するだけだ。 「ついに王冠を脱ぐ時が来たか。余はちょっと賢い愚民になる」 「世の中それを平民と言うんですよ愚王様。優復活祭を計画しておきましょう。……自分を消すの、もうやめろよな。心臓に悪い」 「ごめん。俺の復活祭はマリアンヌいる?」 「お前醤油ラーメン好きだよな。わかったよ、すり鉢で用意しておくから」 「あ、それはやめて。普通でお願いします。マリアンヌはスレンダーの方が似合ってる。ぽっちゃりは餃子のソフィアにして」 「ぽっちゃりってどのくらいだよ、手のひらサイズか?」 「知ってるか? 世の中それを肉まんって呼ぶんだぜ?」  さらさらと氏名を直筆でサインして。出勤して、破り捨てられないように人事総務に提出した。いろんな人にいろいろ言われたけど、俺もう国王じゃないし。愚民の願いを叶える必要ねえし。 「うるせえハゲ」 「!? な、あ!? 侮辱だ、訴える!」 「好きにすれば。俺は労基に訴えるから」 「で?」 「とりあえずムカつく奴選手権優勝の無能上司だけにしたんだけど、ゴミ箱の中身そいつの机の上にぶちまけて机何回も蹴りまくってたらみんな引いてた」 「まあ、俺も引く」 「そのタイミングで親父と舎弟の皆さんが来て凄い事になって」 「あはは」 「あははじゃねえよ、いつウチに連絡したんだテメエ」  優男な見た目なのに、やっぱりヤクザの息子だなあとこういう時は思う。眼力が凄いのでちびりそうなくらい怖い。が、慣れた。 「お前が気絶してる時。めちゃ心配してたぞ、親父さん」 「……。うん。ぶん殴られた」 「顔腫れてるしな」 「で、泣かれた」 「ガリガリになった息子見たらそりゃ泣くだろ、あの人生粋の親バカだぞ」 「やっぱお前もヤクザになれって言われたからそれは全力で拒否った」 「悪い、それは正解だと思うわ」 「ちっちゃく舌打ちしてたから半分は泣き落としだなってわかってますますヤクザになるもんじゃないなって思った」 「人間の心理を手玉に取るのがヤクザだもんな。ぱっと見ヤクザに見えねえしあの人」 「就職活動しなきゃ。離職票ちゃんともらえるかな」 「その前に」 「うん?」 「寝ろ」  愚民の為に身を削った元国王様。ありがとう。そんな風に自分を労わりつつ、心の中で今まで考えるのを我慢してたちょっと口では言えないようなすっごい血祭りで会社のやつらを処刑しつつ。五歳の頃から一緒のネズミーランドの人気キャラであるマッキーぬいぐるみ(1m)を抱きしめて寝るのだった。  おかえり、俺。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!