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「に、人間? 流石に食人は倫理的に問題ではござらんか?」
「脳みそ腐ってんのか、お前は」
腐ってて当然のゾンビに言うことではないかも知れんが。
「そもそも私らはゾンビだぞ。ゾンビって何を食うの? 豆腐のハンバーグとかシャリシャリ生野菜のステックとかか?」
「うーむ、確かに。健康食なゾンビなぞおらんでござろうが」
モブ男が考え込む。
「当たりめーだろ。ゾンビって言ったら『人間を喰らう』怪物じゃん。人間を食わないゾンビなんぞ、ゾンビとして生きている意味が無いだろーが」
「……半分死んでいるようなものでござるが」
「やかましいわ!」
有無を言わさず蹴り飛ばしてやった。
「も、もうちょっと丁寧に扱って欲しいでござる。特に腹の周りは食いちぎられて頼りなくなっておるし」
ふらふらしながらモブ男が立ち上がってくる。どうやら痛みは感じないらしい。ならば遠慮はいらないか。
「あのさ、あんた『罪の食材』って知っている?」
「ギルティ? 刑務所の飯でざるか?」
「違げぇよ、ぼけぇ!」
よし、今回はフルスイングで蹴り飛ばせた。うん、少しだけ憂鬱が晴れた気がして気持ちがいい。モブ男がまたしても吹っ飛び、ふらつきながらぶつかった壁際から戻ってきた。
「だから、もっと丁寧に……」
「『身体に罪な美味いもの』をギルティフードって呼ぶんだよ!」
モブの意見なんぞ聞くだけ時間の無駄というものだ。ま、本来の意味は高カロリーとか糖分、塩分や脂質が多くて身体に悪い食い物の意味だけどね。
「じゃあ、この世でサイコーにギルティな食べ物って何? 決まってんじゃん! 人間よ、人間! だったらそこを目指すべきなのよ、私たちゾンビは!」
ああそして、私はその罪と罰から逃亡するの。何てメインなゾンビだろうか。
「……けど」
モブ男は不満気だ。
「美味いのであろうか、人間は」
嫌なこと聞くな、こいつ。知らねーよ。食ったことねーんだし。
「いや、そこはイメージしろよ、イメージ。『口の中で弾けるような目玉』とか、『苦味と旨味が混在する肝臓の香り』とかさ」
……何か、自分で言っててサイコな気がしないでもないが。
「とは言うものの、この近辺に人間なぞ残ってねーしな。いたら皆んな、ゾンビの餌食になっているだろうし」
ちっ! と舌打ちする。
問題はそこだ。だが『食えない』となると余計に食いたくなってくるし。
するとモブ男がおもむろにノートPCで何かを検索し始めた。
「近いところだと、北へ50キロほど行った先に、人類がゾンビと戦う絶対防衛線がある様子でござるな」
そうか、生き残っていた人類が踏みとどまっているのか。中々やるじゃないか、人間どもめ。
「50キロか……歩けない距離じゃあないな」
そこまで行けば『人間』がいる。サイコーの食い物がある。だったら。
「おい、行くぞモブ男」
早速教室を後にすると、慌ててお供のモブ男がついてくる。
目的地が割と近いのは有難いものだ。ならば腐ってるばかりが能じゃあるまい。
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