モブなゾンビとギルティフード

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 分かってはいたことだが、ゾンビってやっぱりゆっくりしか動けないものだった。もうね、陸を這う亀かってくらい遅いんだよ。ち……っ! これは計算外だった。 「仕方ないでござるな。ゾンビといえばスローモーションが基本にござれば」  モブ男はあまりに気にしていない様子だが、この遅さがやっぱしモヤってしょうがない。確かに猛スピードで走るゾンビはゾンビらしくない気がするが。  太陽に照りつけられると腐敗が進みそうだし、移動は夜間限定なので余計遅いのもある。それにゾンビは太陽より月夜が似合うというもの。  ほんのり青い月が何とも心和らぐ気がする。 「それにしてもだ」  見渡す周りに、何かモヤって仕方ない。街に荒廃感がないのだ。 「……コンビ二、ふつーに営業してるじゃん」 「ああ、ファイナリーマートでござるな。拙者も利用しているでござるよ」  さも当然そうに。 「ゾンビが何を買うんだよ?」  いや、当たり前に商売しているのもあれではあるが。 「え? いつも通りマンガ雑誌やらポテチやら買うでござるが?」  だからか。「調達してくる」と簡単そうに言っていたのは。 「ちな、支払いは?」 「ゾンペイの電子決済でござる」  モヤるなあ。何で今までと変わらない生活とかしてるわけ? 私らゾンビなんだよ、ゾンビ。  よく見ると町中はそこそこ人通りならぬゾンビ通りがある。それっぽく生活しているっていうか。……現状を受け入れ過ぎじゃあるまいか。 「おや? 葉家(はか)公園が賑やかでござるよ」  モブ男に言われた方を見ると、大勢のゾンビが輪になって踊っているではないか。 「はは! 盆踊りならぬゾン踊りでござるか!」 「……」  違う。そうじゃない。これは私がイメージしているゾンビの生態ではない。もっとこう緊張感があって、いつ何処で生き残っていた人間との壮絶な死闘が始まっても不思議のない殺伐とした……そういうイメージであるべきなワケよ。    ああ、それが何でこんなにも和気あいあいで長閑な空気なんだろうか。もっとこう、集団で人間を襲いに行くべきじゃないのか? 何で当たり前みたいにふつーの生活をしているわけ?  ゾンビがモブっていてどーすんだよ! 「あーら、奥さま。今晩もいい月ですねぇ」 「夜行性は身体に優しいわよねぇ」  とか雑談している二人組がいた。ダメだ、完全にこの生活にアジャストしてしまっている。モブりきっている。  だが私はこのままモブで終わる気など到底ない。  このモヤりを消すためにも、私は人間を食ってモブから脱却するのだ!
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