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海岸通りに出ると、私らのような二人組のゾンビをちらほら見かけた。
「見てご覧、いい月だよ。君と見る月は本当に綺麗だ」
「本当に素敵! 私、あなたとこうしているだけで幸せよ」
とかやってる訳よ、このリア充ならぬゾン充どもめが。お前ら、お互いのスプラッタな顔をちゃんと見られるのか?
それとも「愛は見た目を超えます」とか言う気か?
「あー……何かモヤって腹立つわ」
「どうかしたでござるか?」
そう尋ねてきたモブ男に私は苛立ち紛れに思わず。
「つか、さ。モブ男は何で私に『食い物を持ってこようか?』なんて言ってきたの?」
と聞き返して『地雷だったか』と後悔した。
もしもここで「実は拙者、存田殿のことを」とか言われたら全身全霊の力で蹴り飛ばしてしまうに違いない。「ザけんなぁ! それ言っていいのは上位5%のイケメン様だけだ!」と、モブ男を粉々に破壊してしまうだろう。
とはいうもののだ。
このモブ男にお供をさせているのはちゃんと理由がある。ここで無駄に消耗させることは避けたいのだ。
さてどう誤魔化すかと困ったのだが。
「実は、拙者の嫁はどれだけ愛を注いでもモニターから出てきてくれないのであるが」
「二次元の嫁かい!」
そりゃ出てこねーだろう。つか、出てきたらそれはそれで何処かで見たようなホラー映画になるだろーし。
「その嫁に、存田殿が似ておるのだ」
ああ、そういう理由か。まあセーフだな。
「何か有名なアニメのヒロインとかか?」
それが美少女だったとしたら、許してやらんでもない。
「うむ。『異世界コンビニ深夜のバイト』という拙者イチオシの深夜アニメで」
「随分と地味な異世界ものだな。異世界の意味あるのか、それ」
「その第8話に3秒だけでてきて「こんばんわ」と挨拶する主人公のバイト仲間の妹で……」
「いや、更に地味だな、おい。しかも3秒って、ただのモブキャラじゃねーか」
可愛いのかも知れんがモヤってたまらん。
「モブとは失敬な。確かにキャラデザは少々地味でござるが拙者たちはニワカでは無い故、そこに滋味を見出すでござる」
ダメだ、返答が異世界すぎる。
「……ふつーの女に興味とかなかったのか?」
「いや、拙者は3次に興味はござらん」
きっぱりと言いやがった。顔は大惨事なのに。
「……まあその方がいいだろうな。他人様に迷惑かけずに済む」
「失敬な、拙者は犯罪者ではござらん」
モブ男がむっとした顔をした。
「それを言うなら人間を食する方がよほど迷惑でござるぞ? 迷惑どころか立派な犯罪であろう」
と正論を吐きやがった。嫌な野郎だ。
「ち……っ! まあいい」
無理やり話題を止めたところで、街の灯りが目に入ってきた。
「お! 見ろ、あっちにあるのは人家じゃないか?」
ということは。
「うむ。絶対防衛線が近いでござるな」
モブ男も気を引き締めていた。
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