モブなゾンビとギルティフード

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「あーお腹すいた。……ような気がする」  窓側の席で乾いた空に独り言を呟く。  モヤった気分に膝丈スカートのほつれた裾がふわりとなびいた。  何しろもう、2ヶ月以上のだ。そりゃ腹も減るだろうさ。つか、食べなくて餓死するとかあるんだろうか?  ……私たちのようなに。  周りにちらほらといるクラスメートも暇そうだ。まあやる気でないよね、ふつー。『腐ってる』ってゆーかさ。文字通り腐ってんだけど、全身が。何せゾンビだから。  何の前触れもなかったよ。緊急事態メールが着信したのは全てが終わった後だった。とにかく気がついたら、学校の周りがゾンビで溢れかえってた訳よ。  んで、そいつらが一斉にうちの高校に襲いかかってきたんだわ。もうね、あれだけ数がいたらゴリマッチョ系ハリウッド映画俳優の一人や二人いたところでどーしよーもないわさ。  アイツら何処から来たのやら。  いや、そういうときってさ。ありそうなモンじゃんか、ほら。  普段は遠くから見つめて憧れるだけしか無かったイケメン君が「危ない! こっちへ」「え? どうして私を?」「僕はずっと君を見ていたんだ」「イケメン君!」……的なオヤクソクの恋愛イベントが。  ……無かったよ。  イケメン、来なかったよ。ちくしょうめ。皆して顔しか取り柄のねー女にばかり取り付きやがって。私はギャルゲのモブ女かっつーの。  つか、ここぞとばかりに手近な女に「ぼ、僕と、一緒に……」とキョドり迫って「それはテメーの役じゃねぇ!」とぶちキレ食らっていた陰キャ男どもの悲哀も中々笑えたものではあるが。  まあ私には、それすらなかったけどね。ちくしょうめ。  と、モヤりながら溜息をついたときだった。 「あ、えと、あの、存田(ぞんだ)殿。い、如何されたでござろうか?」  江戸時代から転生してきた出来の悪い忍者みたいな声に「何?」と横を向く。……あかん。絶対こいつ、天井に隠れてて槍で刺し殺されるタイプだわ。 「いや、その……」 「つか、お前誰よ?」  何しろ皆ゾンビだからさ、顔があれで判別つかないんだよね。 「失礼! 拙者、鎖村(くさりむら)でござるよ」 「あー鎖村ね。……って誰だっけ?」 「失敬な! 仮にもクラスメートでござるぞ?!」 「知らんな。イケメンカースト上位以外は『モブ男』だ」  まあ、もはやこうなったらイケメンも美少女もないけどね。皆一様にスプラッタな顔だから。 「で、そのモブ男が何の用?」 「モブ男ではなく鎖村でござるが」  鎖か綱か知らないがモブがゾンビ化したらもっとモブだろう。 「存田殿が『腹が減った』と仰せであったかと」 「だから?」   「も、もしよければ拙者も暇ゆえ、好みのものがあれば調達なぞいたそうかと」 「あのねぇ」  こいつ、自分が何者か忘れているんじゃあるまいか。私のモヤりを解消する食い物はしかないのだよ。 「私が食べたいのは『人間』なの」  だって、ゾンビなんだもん。
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