初恋

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そんな生活しているのに、私が仕事帰りに皆と寄って帰るときは、必ずと言っていいほど、駅まで迎えに来てくれる。田舎の夜と違ってこっちの夜は街灯があって明るいのに、物騒だからと。これは恋人の関係になる前から。 駅からアパートまで一緒に並んで歩く姿は、側から見たら、恋人同士に見えるんだろうな、と思う。表向きは兄妹として過ごしているけど、お互いの心の中では恋人。 それを窮屈だとも、不自然だとも、思っていない。敢えてわざわざ、世間に向かって言い広める必要もないから、この形でいい。お互いがお互いを、想いあえていられたら、それでいいと思っている。 この関係に、心地よさを感じてしまうと、ただ、目の前の、幸福に包まれていたい。 私は仕事をしているけど、己幸は学生で、夢を持っている。宇宙に広がる大きな夢。それを邪魔したくないから、先のことなんて考えられない。考えたくないのかもしれない。 今の関係に終わりが来るとも思っていない。いっときの、気の迷いだとも思わない。ただ今ある幸福を感じていたいだけと思うのは、都合のいい思考なのかな。 台風の夜、兄妹の一線を越して、男女として関わって、お互い好きだったと認めてしまい、求め合う仲になってしまったら、離れるなんて、考えられない。己幸は私の一部同然の存在になってしまっている。己幸は、運命なんだよ、って言っている。 誰にも聞けない、言えない秘密の恋。
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