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「薬、早く持って帰ってやれ」  ルドヴィックにそう言われ、ミルセアはハッとした顔でポケットを押さえた。自分の使命を思い出したのだろう、一度両手を地面につき、細い脚に力をこめて立ち上がる。その頬には涙の跡が残り、顔色が悪くクマも濃い。けれど、顔を上げた彼の瞳は陽の光を映してキラキラと輝いていた。 「ありがとう……ございました」 「さっさと行け、もう捕まるなよ」 「気をつけます」  ミルセアは金色の頭を下げ、一度ルドヴィックの赤い目をじっと見つめてから、ゆっくりと踵を返した。ギクシャクとした足取りながら、少年の背中が少しずつ確実に遠ざかっていく。その姿をしばらく見守り、ルドヴィックも人間の子どもに背を向けた。  空気で腹を満たすようにたっぷり息を吸い、細く長く吐き出す。口の中には絶えず唾液があふれ出し、爪の長い手はわなわなと震えていた。ときおり息を止めて堪えたので、胴に密着していたミルセアに、腹の音を聞かれずに済んだのは幸いだった。  塀の内側に戻り、門を閉ざす。それだけで、強い安堵が全身を包んだ。  ルドヴィックは右のツノをかき、口元に笑みを浮かべながら、誰もいない空に本音を吐き出した。 「あ〜、腹へった」 【了】
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