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地下のワイン倉庫に向かうため、屋敷の真ん中にある階段を下りる。すると中ほどに、血溜まりと大きな肉塊があった。赤く染まった木綿のシャツに、泥だらけでずたずたのズボン。どうやら体格のいい成人の男らしい。肉が硬そうだから庭園では見逃され、屋内に逃げ込んだところで狩られたのかもしれない。見ると、ホールの窓が一つ、外側から割られていた。
「R.I.P.」
血溜まりを避けて踏み出した革靴が、階段の敷布を踏んでビチャッと水音を立てる。
あぁ、うんざりだ。
ため息を通り越して、歯軋り。屋敷の中がこの様子では、庭園の片付けはまだ手付かずだろう。いっそこの時期は一週間ほど冬眠できたらいいのに。謝肉祭のたびに思うが、あいにく鬼の体はそんな便利にはできていない。
人間より丈夫で、少し燃費が良く、だいぶ寿命が長いだけだ。
今年の謝肉祭で庭園に放たれた人間は確か、百人。一晩のうちに食べ散らかされた百人分の遺体が荘園の敷地に散乱していると思うと、本当に嫌な気持ちになる。
早いとこ適当なワインをゲットして部屋に戻ろう、その一心で足を速めた。地下に続く階段を下り、重い扉を開けると、ひんやりとした空気にホッとする。薄暗い壁一面に整然と格納されたボトル。部屋の奥には熟成中の樽。その横に……丸めたシーツ?
違和感しかないその塊に歩み寄る。と、それが小刻みに震えていることに気づいた。
「おい、」
声をかけると、「ひっ!」とか細い悲鳴。抱えた膝の間から上げられたのは、まだ小さく幼い顔だった。
「ガキ……?」
金色の頭にツノはない。何より、匂いでわかる。親戚の子鬼ではなく、人間の子どもだ。
「謝肉祭の生き残り、か」
あぁ、本当にうんざりだ。
ルドヴィックは右のツノをかき、長いため息をついた。
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