3.

1/3
15人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ

3.

「あら、ルドヴィックじゃないの!」  屋敷の裏口に向かう途中で、甲高い声に呼び止められた。ミルセアの全身がビクッと震えたのがわかる。面倒なのに捕まった、そう思いながら、ルドヴィックは正面から近づいてくる鬼女に目を向けた。 「よぅ、ベラ」 「よぅ、じゃないわよ、全く! 謝肉祭をサボタージュしたこと、知ってるんだからね」 「ついうっかり、寝過ごしちまってな」 「よく言うわ。おじい様も呆れていたわよ」  胸元のあいたドレスに豊満な身を包んだ彼女は、ルドヴィックの従妹(いとこ)だ。赤いベルベットの生地にはきっと、何人もの血が染み込んでいるのだろう。ベラが身じろぎするたび、夜露に濡れた草土と人間の体液の匂いが漂ってきた。 「謝肉祭は終わったのか?」 「当たり前でしょう? みんなお腹いっぱいで寝ているわ。もう人間は残っていないわよ?」 「あぁ、そりゃ残念だ」  ミルセアの激しい鼓動が伝わってくる。ベラの姿は見えていないだろうが、謝肉祭を楽しんだ食人鬼がすぐそこにいるのだ。人間(エモノ)がここに残っていることがバレたら生きては帰れないことくらい、誰でもわかる。 「ベラ、お前は寝なくていいのか?」  ルドヴィックが聞くと、美しい従妹は爪の長い指で肩にかかる巻き毛を払った。 「興奮がさめなくて、眠れないのよ。ねぇルドヴィック、私と食後の運動しない?」 「あいにく俺は寝起きだが」 「じゃああなたは食前の運動ってことでいいじゃない。お昼にはちゃんと調理された食事が食堂に用意されるでしょうから、それまで、ね?」
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!