15人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
「見なかったことにしてくれ、ベラ」
「何、言ってるのよ……」
信じられない、と言わんばかりに、彼女は眉を顰めて従兄を見下ろした。ルドヴィックはマントの裾を広げて床に膝をつき、俯いて額を押さえている。
「あなたまさか、貧血?」
「そのようだ、ひどいめまいが」
「もう! ホントにだらしないわねぇ!」
差し伸べられた手を身振りで制し、ルドヴィックはベラに懇願の眼差しを向けた。
「悪いが、厨房から適当な肉を取ってきてくれないか? このままでは動けそうにない」
「わかったわ」
ベラがため息をつき、「ここで待っててね」と言って踵を返す。廊下を曲がってその背中が見えなくなると、ルドヴィックは盛大に安堵の息を吐いた。
「ミルセア」
床に落ちてしまい、絶望に震える少年に声をかける。マントの中にいるので見えないが、顔面蒼白で目に涙を溜めている姿が目に浮かんだ。
「す、すみま、せ……っ」
「大丈夫だ。それより、泣いている暇はない。すぐにここを離れないと」
そう告げると、ミルセアはすぐにまたルドヴィックの胴に腕を回した。歯を食いしばり、嗚咽を抑えているのが、密着した頬の緊張から伝わってくる。
「上等だ」
ベラが戻る前に、また誰かに見つかる前に、屋敷を出なければ。ルドヴィックはマントの上からミルセアの背中を押さえ、大股で出口へと向かった。
最初のコメントを投稿しよう!