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「見なかったことにしてくれ、ベラ」 「何、言ってるのよ……」  信じられない、と言わんばかりに、彼女は眉を顰めて従兄を見下ろした。ルドヴィックはマントの裾を広げて床に膝をつき、俯いて額を押さえている。 「あなたまさか、貧血?」 「そのようだ、ひどいめまいが」 「もう! ホントにだらしないわねぇ!」  差し伸べられた手を身振りで制し、ルドヴィックはベラに懇願の眼差しを向けた。 「悪いが、厨房から適当な肉を取ってきてくれないか? このままでは動けそうにない」 「わかったわ」  ベラがため息をつき、「ここで待っててね」と言って踵を返す。廊下を曲がってその背中が見えなくなると、ルドヴィックは盛大に安堵の息を吐いた。 「ミルセア」  床に落ちてしまい、絶望に震える少年に声をかける。マントの中にいるので見えないが、顔面蒼白で目に涙を溜めている姿が目に浮かんだ。 「す、すみま、せ……っ」 「大丈夫だ。それより、泣いている暇はない。すぐにここを離れないと」  そう告げると、ミルセアはすぐにまたルドヴィックの胴に腕を回した。歯を食いしばり、嗚咽を抑えているのが、密着した頬の緊張から伝わってくる。 「上等だ」  ベラが戻る前に、また誰かに見つかる前に、屋敷を出なければ。ルドヴィックはマントの上からミルセアの背中を押さえ、大股で出口へと向かった。
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