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「あ〜、よく寝たなぁ」  ルドヴィックが目を覚ましたとき、時計の針は8時を指していた。窓の外はすっかり明るい。つまり、昨日の昼前から丸一日近く寝ていたということだ。  血の匂いが鼻をつく。夜通し開催された「謝肉祭」は日の出とともに終わったはずだが、まだ片付けは済んでいないのだろう。窓を閉めているというのに、メイン会場だった北側の庭園から届くむせかえるような死臭が部屋に充満している。 「カンベンしてくれよ……」  どうせなら昼過ぎまで寝ていればよかった、そう思いながら右のツノをかく。別に痒くはないが、昔からの癖だ。ルドヴィックはツノが大きい方で、鬼女からは人気があるものの、髪に隠れる程度のツノなら人間の街で遊べるのにと、日頃から残念に感じていた。  目が覚めてしまったものは仕方がない。喉の渇きを覚えた彼は、ゆっくりとベッドを下りた。  謝肉祭には親戚中の鬼が招待されているから、自宅とはいえ寝室を出たら誰に出くわすか分からない。伝統行事をボイコットしたことがバレたら咎められるだろう。ルドヴィックは祭りに参加していたように見せかけるため、寝巻きの上に正装用の黒いマントを羽織った。窮屈でかなわないが、襟まできっちりボタンをかける。  両開きの扉を体の幅だけ開き、顔を出して左右を確認。一段濃くなった血の匂いに眉根が寄ったものの、廊下に鬼の姿はないようだ。
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