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第二話 暗殺された王子様
男は東京のタワーマンションの一室にいた。
そしてパソコンを開き、ある別の男に電話を掛けた。
パソコンを使っている理由は専用回線を使用する為で、スマホではセキュリティが不十分だからだ。
男が電話を掛けた先はマカオだった。
電話が繋がり合言葉を交わした後、男はゆっくりと話し始めた。
「俺がなぜお前に電話をしたか分かるか」
電話のイヤホンの向こうから少し震えた声が返ってきた。
『す、すいません。まさかこんなに大事になるとは思ってなかったもんですから』
思った通りの答えだった。白々しいなと思いながら、男は少し声を荒げた。
「バカ野郎。一国の王子様の殺害だぞ。大事に決まってんだろうが」
『は、はい。すいませんでした』
「まあいい。目的を達成した事は褒めてやる」
『はい』
「あの王子様の浪費癖は目に余るものがあった。あのままじゃ、いずれ国を売るかも知れんからな。まあそうはならなくても、国の重要機密を外部に漏らして小銭を稼ぐ事も十分考えられた。あれは一刻も早く口を封じる必要があったんだ。そう言った意味で、目的は達成できた訳だから。先ずは礼を言おう」
『あ、ありがとうございます』
「しかしなぁ、刺客がサツに捕まって挙句画像が世界中にばら撒かれるなんて、ド素人でもやらないヘマだぞ。いったいどうしたんだ、お前」
『す、すいません。人選を誤りました』
「人選を誤った?」
『はい』
きっと用意していた逃げ口上だろう。男は話題の切り口を変えた。
「そうか。まあいい。ところでお前、最近羽振りがいいらしいな」
『は』
「毎晩百万単位の金をばら撒いて、遊び歩いているそうじゃないか」
『いいえ、そんな事は……』
「隠すな。裏は取れてるんだ」
『……』
「その金、どっから手に入れた」
『そ、それは……』
「まさか、王子様殺害の為の資金に手を付けたんじゃないだろうな」
『そんな事はありません』
「そうか。じゃ、どっからそんな大金手に入れた。割りのいい副業でも見つけたのか」
『いいえ……』
電話の向こうの声がだんだんとしわ枯れて来た。
「どうせあれだろう。刺客の訓練資金をチョロまかしたんだろ」
『……』
息遣いが荒くなっているのが電話越しからでも分かった。図星だったようだ。
「ちゃんと訓練していれば、あんな公衆のど真ん中で殺害するなんてヘマはしない」
『す、すいません。もう資金には手を出しません』
ついに白状した。
「まあ、今まで使った分は冥土の土産としてくれてやるよ」
『へ?』
「お前に刺客を送った。この電話が切れたのを合図に、お前を殺る算段になっている」
『そ、それは。お許しください』
「安心しろ。こっちのはちゃんと訓練を受けたアサシンだ。後腐れなく秘密裏にちゃんと片付ける」
『ちょ、ちょっと待って下さい』
「残念だが、お前の役割は終わったんだよ。将軍様の為に死んでくれ。さようなら」
そして男は、プツリと電話を切った。
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