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第三話 有名タレントの自殺
男は北の町S市で一人の別の男と会っていた。
相手の男はビシッとしたスーツ姿の中年だった。
場所は高級ホテルの最上階。
窓から見える夜景は一つ一つの灯りがクッキリと見えて、東京のそれとは違った鮮やかさがあった。空気が澄んでいるからだろう。
そんな景色を眺めながら、男はスーツの男に語りかけた。
「まさか飛び降り自殺とはな。しかも有名人と来たもんだ」
スーツ姿の男は直立不動のまま答えた。
「すいません。うかつでした」
「どうせ、お前の手下が勝手にすすめたんだろ」
「それは……」
「分かってるよ。お前があんな若くてピョンピョンした少女に薬を勧める訳がねえ。こうなる事は目に見えてるからな」
「はい」
「で、タレントさんに薬を勧めたのはどっちだ。同志か、日本人か」
「日本人です」
「そうか。じゃ消せ」
「はい」
「同志なら本国に送って一生労役に付かせる所だが、日本人を拉致する訳にはいかねえからな」
「はい」
「あと、日本での殺害には気をつけろ。ここは意外と監視の目が厳しいからな。それと沈めるなら日本海はやめておけ。あそこは潮の流れが複雑だ。岸に上がってしまう可能性が高い」
「わかりました。ただ……」
「ん?」
「ただ、奴には家族がいます。どうします」
「ちょうどいいじゃないか。一緒に消せ。家族旅行中の事故と言う風にすれば、足は付きにくい」
「そうですね。わかりました」
少し沈黙が流れた後、スーツ姿の中年が口火を切った。
「ところで、あなたはどうしてS市に居たんですか」
タレントの自殺が発覚してから数分で連絡が来たのは理解できたが、まさかここS市で対面できるとは思ってもいなかったからだ。
「ああ、それな」
男は一度外の高層ビルの灯りを眺め、そしてゆっくりと答えた。
「ちょっと活きのいい奴を見つけてな。儲け話を仕込んでいたところだ」
「儲け話? 日本人ですか」
「そうだ」
「どんな儲け話ですか」
「特殊詐欺だよ」
「ああ、オレオレ詐欺ってやつですね」
「そうだよ。なかなかズル賢い奴でな。愛国心や道徳心なんて微塵もない。詐欺グループのドンには打ってつけの人間だ。我々としてもそう言う奴は扱いやすいしな」
「はい」
「ただこの国じゃ仕事をしにくいだろうから、ミャンマー行きを勧めたところだ」
「なるほど」
「あとはこの国からバンバン金をむしりとってくれりゃ、それでいい」
「そうですね。でも、持ちますかね」
「ううん。まあ、もって三年かな。額も百億がいいとこだろう」
「その先は?」
「知らないね。日本人なんて使い捨てだよ」
「そうですね」
男はスーツの男に向き直った。
「さて、これからの話だが……」
「はい」
「お前はマスコミ関係に口封じをしておけ」
「はい」
「具体的には、麻薬を匂わせる様なコメントは絶対にしない様に伝えろ」
「は、はい」
不安な表情を感じ取ったのか、男はゆっくりと噛み締める様に話した。
「大丈夫だ。捜査の妨げになると付け加えれば聞いてくれるよ。ここは警察が神聖視されている稀な国だからな」
「わかりました」
「俺はその警察と政治家に釘を打っておく。あまり騒ぐなとな」
「はい」
「じゃ、夜明けまで時間がない。急ぐぞ」
「わかりました」
スーツ姿の男は踵を返し、ホテルの部屋から出て行った。
男はスマホを取り出し、電話を掛け始めた。
「おはよう。俺だよ。今回のタレントさんの自殺の件だが……何?まだ聞いてない?全く日本の警察はのんきだなあ。まあ、そのうち連絡が来るよ。用件は簡単だ。それについて騒がれると将軍様の迷惑になるんだよ。わかるな……」
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