第四話 家庭用ゲーム機の役割

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第四話 家庭用ゲーム機の役割

 男は街外れの中古車屋の事務所にいた。  そのプレハブ小屋の一番奥に陣取っている『社長席』の椅子に座って一人の小太りの中年男を見おろしていた。  小太りの中年男は土下座をしている。社長席は本来この中年男のものだ。 「本当に申し訳ありません。まさか税関に気付かれるとは思ってもいませんでしたので」  男は足を組んで頬杖をつき、その中年男に言った。 「全くどうしてくれるんだい。おかげでより税関が厳しくなっちまうじゃねえか」 「は、はい」 「まあ、やり方について一切詮索しなかった俺のせいもあるかも知れんがな」 「い、いいえ、それは……」 「あのゲーム機は将軍様直々の注文だが、どうしてそれが必要だと言っているのかお前は知っているのか」 「それは……」 「将軍様が今欲しがっているのは『誘導ミサイル』だ」 「誘導?」 「そうだ。その為にはあのゲーム機の画像解析能力がどうしても必要なんだよ。しかし、わが国ではあそこまで小型化された装置は作れない。だから、手っ取り早く最新のゲーム機に搭載されているそれを使おうって考えたのさ。将軍様が世界を統べるにはどうしても必要だったんだ。分かるか」 「い、いいえ。そこまでは」 「だから平和ボケした日本人は嫌いなんだよ。税関のやつらだって知ってるんだぞ。だからあのゲーム機の第三国への輸出は禁止されている」 「……」 「有り余る程の金を渡して、どんな手段を使ってでもわが国へアレを渡す必要があったんだ。それ程大事な仕事をお前に頼んだんだぞ。それなのになんだ。外箱を変えただけだ?呆れるぜ全く」 「す、すいません。次は必ず」 「残念だが次はない。税関もお前の動きには注視している。もうこれ以上は頼めない」 「でも、それでは会社が。社員への給料も滞っているんです。何とかもう一回」 「笑わせるな。金のネックレスをジャラジャラさせてる奴が言う事か。勘違いするな。お前のルートはもう使えなくなった。薬の密輸ルートもいずれ気付かれるだろう」 「そ、そこを何とか」 「執こいな。大人しく中古車だけ売ってりゃいいものを、相場なんかに手を出すからこうなるんだ。どうせ愛人にもそうとう貢いだんだろ。自業自得だ。俺は知らねえよ」 「愛人? どうしてそこまで……」 「そうか、気付いてなかったのか。可愛そうだから教えてやるよ。あの女は俺達の手下だ」 「え!」 「おまえを監視する為に就けたんだ」 「そんな……」 「これであの女も開放される。いい事だよ。どうせ最初から体が目的だったんだろ。それにあの女、お前の事をそうとう気持ち悪がってたしな」 「……」 「残念だが、お前にかける情けはない。以上だ。じゃあな」  そして男は事務所から出て行った。  翌朝、事務所のトイレで首を吊っている社長の死体が発見された。
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