マダム

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   マンションにチェーンが掛けられてしまった。二週間莉斗の顔を見ていない。当然ラインも既読無視だ。  莉斗より先にマンションに着いて、待ち伏せできたら良いのだが、あれから仕事が忙しくなってしまった。馬渕は権田を殺人依頼で強請り、ホテルの権利を諸々駿府ビルサービスに移させた。それによって生じたトラブル解決に駆り出されていたのだ。  この日は比較的早く終わったが、それでも二十二時を過ぎてしまった。ダメもとで莉斗のマンションへ向かったが、案の定窓には灯りが点いていた。莉斗が在宅していては、自分は中へ入れない。帰ろうと車に乗り込もうとした瞬間、スマホが鳴った。莉斗からの着信に、ドッと胸が波打つ。応答しつつ窓を見上げると、カーテンをわずかに開け、莉斗がこちらを見下ろしていた。遠くて表情まではわからない。 「もしもし」 『俺に会いにきたんだろう』  低く、怒っているようにも聞こえる声。 「あ……ああ」  通話が切れたのか。そう思ってしまうほどたっぷりと間を開けて、莉斗は言った。 『前に……お前、お、俺に……』  はっきりさせるつもりなのか。真斗は身構えた。あの夜、目隠しは最後まで外さなかった。その一線を越えるかは莉斗に任せた。 『れ、練習台になってくれって……言ったよな。き、キスの……』 「え?」  眉根を寄せる。なんの話だ。頭の中が混乱した。 『……なってやってもいい、ぞ』  首を傾げる。 『い、良いなら、いいっ!』  通話が切れ、シャッとカーテンが閉まった。一瞬の空白ののち、思い出した。  言った。確かにそんなようなことを言った。足が勝手に動いた。プライドの高い男が絞り出した妥協案。素直に誘えないから、過去の頼み事を利用して、真斗を誘ったのだ。真斗がすっかり忘れていた会話を、莉斗は覚えていたのだ。  繊細な神経は一瞬のタイムラグにすら傷つき、ヘソを曲げてしまうのだ。足取りは次第に足早に、ダッシュに変わった。早くめいっぱい抱きしめたい。ちゃんと飯は食えてるか、蕁麻疹は治ったか。確かめたいことがたくさんあった。
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