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「おかえり」
玄関で莉斗の帰りを待ち構え、気配を感じるなり、真斗は扉を開けた。
「お前……合鍵返せ。俺だって一人になりたい時があるんだよ」
莉斗はネクタイを緩めながら、うんざりしたように言った。自然と口元に目がいく。六時間前、峰子の股間をジュルジュルと吸い上げていた唇に……
ペルシャ絨毯の敷かれたコテコテの応接間だった。峰子は大股開きでソファにどかっと座り、莉斗はその下に正座していた。峰子が「もういいわ」と言うまで……三十分もの間、莉斗はそう仕込まれたのか、下品に音を立てながら、年増の股間を愛撫していた。
「相談したいことがある」
思い出したら辛くなり、意識せずとも深刻な口調になった。莉斗の表情が変化する。
「……俺の仕事……セールスだって知ってるだろ。今月、ノルマがやばいんだ」
莉斗が「なんだ、そんなことか」とため息をつく。靴を脱ぎ、廊下を進む。
「俺に頼るな。向いてないなら辞めればいいだろ」
「馬渕さんがせっかく誘ってくれたんだ。辞めるわけにはいかねえよ」
莉斗を追いかけ、リビングへ行く。莉斗はジャケット、ワイシャツ、ベルトと、身につけているものを次々と脱ぎ捨てながら、バスルームへと向かう。一刻も早く女との情交を洗い流したいのだろう。分かっていながら、脱衣所で引き留めた。
「上客になりそうな人がいる。俺のこと気に入ってくれて、いくらでも金を使ってくれるって。でもその人おっさんなんだよ。ゲイでさ。俺のこと、そういう目で見てるんだ」
莉斗は無関心を装いながらスラックスを脱ぐ。
「抱いてくれって言われてるんだ。でも俺、男なんて無理だし、キスもできる気がしない」
「なら断ればいい」
莉斗は靴下を脱ぎ、パンツ一丁になった。真斗ほどではないが、莉斗も甘い顔のわりに逞しい身体をしている。乳首はあれほど家庭教師に弄られたというのに小さいままで、そこで性感を得られるようにはとても見えない。
「言ったろ。ノルマがやばいんだ。キスしたら助けてくれるって」
視線を感じてか、寒さか、莉斗の乳首がツンと尖った。まるで隠すように莉斗はかがみ、パンツを脱いだ。
「回りくどい。はっきり言え」
「練習台になってほしい」
莉斗は鼻先で笑った。
「身を置く環境が悪いとそういう発想になるんだな。もう少し常識を学べる職場に転職しろ」
莉斗はバスルームの中へと入っていった。まもなく、シャワーの音が聞こえてきた。
軽い気持ちのはずだった。莉斗は好きでもない女のアソコを舐めて、懸命に勃起させて、挿入まで行ったのだ。もしかしたら弟とのキスも受け入れるかもしれない、だから試しに聞いただけ……でも拒絶され、激しい心の揺れによって、そうではなかったのだと気づいた。本当は強い期待を込めてそれを聞いた。売り上げのために女を抱くより、弟とキスする方がマシだと思った。……違うなら、自分はどうすれば、あの唇に触れられるのだろうか。胸の奥底にしまっていた欲望が、言葉にしたことで溢れてしまった。どうすれば、どうすれば……すりガラスの奥では、莉斗が熱心に身体を洗っている。
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