マダム

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   事務所に戻ると、馬渕が一人でいた。「よう、真剣佑。今日はいくら搾り取った」下卑た笑みを向けてくる。 「三件で四十七万です」  伝票を差し出すと、馬渕はヒュッと口笛を鳴らした。この商売は十万もいけば御の字だ。 「いいねえ、いいねえ。さすが俺が見込んだ男だぜ」  よしっ、と馬渕は勢いよく席を立った。 「半年後に始める商売なんだがな、テメエは特別だ。ひと足先にやらせてやる」  馬渕はキャビネットから厚い冊子を取り出した。 「リフォーム?」 「水回りから外壁塗装、一流の職人によるハイクオリティリフォームだ」 「職人を雇うんですか?」 「たわけ。俺らは注文取るだけだ。後は業者に丸投げすんだよ」  中抜きか。 「ですが青葉道(あそこ)は外商カード持ちの金持ちばっかりですよ。リフォームは信頼できる外商員に頼むんじゃないですかね」  馬渕が瞬きする。 「真斗テメエ、たまにはまともなこと言うじゃねえか。どうした、俺が勧めたハーブティー飲んでんのか」  真斗は曖昧に笑って誤魔化した。 「なあ真斗、年間二百万だ。外商カードを持つには、その百貨店で二百万以上使わなきゃなんねえんだと。そうしたら外商員がトランクを持って家にくる。バカラのグラス、宝飾品、テーブルに並べてホームショッピングだ。おだてて、気持ちよくさせて、金を使わせる。あいつらは金持ち囲って、選択肢奪って、自分たちだけで甘い蜜を吸ってんだ。俺らより悪どい商売してると思わねえか。だいたい俺はよお、ガキん時から百貨店の殿様商売が嫌いなんだよ。何をお高く止まってやがんだ。客なんて北海道展と食料品売り場にしかいねえじゃねえか」  馬渕はひとしきり百貨店を貶すと、「テメエなら外商員を追い出せる」と言って、リフォームカタログを真斗の胸に押し付けた。
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