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「浩一、山本先生からだ」  同期が転送してくれた電話に出る。山本との電話のやり取り自体は、普段もよくあることで、 「お世話になっております。関田です。この度の、難関大学理系数学の……」 「書き換えたのは、あなたですか?」  言い終わる前に、山本が切り込んできた。  言葉遣いはいつものように丁寧だが、機嫌が悪いのが声色からすぐにわかった。  それでも、寝起きなのだろう程度に思った浩一は、お礼の言葉でももらえるのかと期待しながら、 「はい。よりエレガントかなと思いまして」 「なぜ断りもなく換えたんですか?」  詰問口調が意外で、少し言葉に窮しながら、 「それは……校了が迫っておりましたので……」  先生の原稿が遅れたので、とはさすがに言えなかった。  山本の声は次第に怒りを増し、 「ちゃんと原稿を読みましたか?」 「はい、もちろんです。すべてに目を通しております」 「ならば、あそこにあなたが書き換えた解答を入れるのはおかしいでしょう?」 「……そうでしょうか?」 「入れるのなら、別解としてですよ。確かにエレガントだけど、あれでは泥臭く解き進めていくという一連の流れを、完全に無視してますよね」 (しまった……そう言われれば、確かにそうだった)  受話器を握りながら、浩一は思い出していた。あの時は、校了に追われ、字面だけを追う中、閃きだけで書き換えてしまったのだ。周りが見えていなかった。  しかし、浩一は弁明に走ってしまった。  今まで飛ぶ鳥を落とす勢いでやってきて、失敗しなかった自信もあったかも知れない。 「でも、泥臭い解答は、難関を受ける高校生なら考えつくでしょうから、あえてエレガントな解答を提示する方が良いかと思いまして……」 「私はそんなことを言っているのではなくて、なぜひとこと、私に相談してくれなかったのか、ということです」 「それは……先ほども申し上げましたが、時間がなかったので……」 「もういい。上の人に代わって下さい」  浩一の言葉を遮る声は、静かながら、蓋をしても溢れそうなぐらいの怒りを感じた。
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