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3
数日後の、3月の終わり。
浩一は京都駅に降り立った。
初めてとも言える挫折体験の後、京都にいる留美子の顔がふと思い浮かんだ。
同時に、会いたい気持ちが溢れ、翌日の朝早く、新幹線に飛び乗ったのだ。
会社には、体調不良で休むと連絡をした。
およそ1年振りのLINEを、京都駅のホームから送る。
1年前の気まずい別れから、LINEすらほとんどしていなかった。
そのまま、やり甲斐と忙しさの中に身を置き、留美子の存在は、いつか過去のことのようになっていった。
返信はすぐに来た。
10時。春霞の、哲学の道南端の入口付近。
留美子を待つ間にも、道行く人々の数も増えてきた。
こうしていると、留美子と付き合い始めた頃を思い出す。
初めてのデートの待合せ。
当時はお互いに大学生だった。
あれは確か、横浜駅だったか。
遅刻してはいけないと、早く着き過ぎて、30分も待っていた。
改札から出てくる彼女を見つけた時の、胸の高鳴りとはやる気持ちは、今でも忘れない。
と、近づく人の群の中に、自分に向けて手を振る女性を見た。
(留美子!)
1年振りに見る彼女は、髪がショートになっていた。
浩一も手を振り返すと、小走りになって駆け寄ってきた。
思いがけず感極まりそうになり、言葉に詰まる。
「久しぶり!」
先に留美子の方から声をかけてくれた。
「……久しぶり」
やっと声になった。
「よく来たね、京都まで」
柔らかな日差しの中、彼女の笑顔が弾ける。
「おっ。会いに行くって言っただろ?」
「えーっ、そうだっけ?いつの話?」
そう言って留美子は笑った。
去年のことなど忘れたかのように、屈託がない。
そのことに救われ、普通に付き合っていた頃の気持ちを取り戻す。
それから、留美子と並んで哲学の道をゆっくり歩き始めた。
「髪、切ったんだ?」
「えっ?あ、うん。こっちに来てすぐにね。言ってなかったっけ」
そう言って、手で後ろ髪を触る彼女。短くしたことを忘れてしまっていたかのように。
早いと思っても、もうそのぐらい時間が経ったということかも知れない。
「すごく、似合ってる」
感じたことが素直に言葉に出る。だけどぶっきら棒だ。
「えっ、そう?って言うか、どうした?浩一くん」
「えっ……どうしたって、そう思ったから……」
浩一が困ったような顔をすると、留美子は「ふふ」と笑って、
「私が知ってる浩一くんって、そんなこと言う人じゃなかったからさ」
「……そうかな?」
「そうだよ。何かあった?」
微笑みながら、小首を傾げる。
それから浩一は、山本先生とのトラブル、そして、課長との話を一気に話した。
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