2/3
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
 その間、ただ頷きながら聞いてくれていた留美子が、最後に、 「仏の山本先生を怒らせるなんて、浩一くんもなかなかやるじゃん」  と言って笑った。  そんな彼女の反応に、浩一は、心がスーッと軽くなるのを覚えた。 「初めてだね。私にそんな話してくれたの」  そう言いながら歩く留美子の足取りも軽い。 「そうだっけ?」 「そりゃそうか。浩一くん、順調にきてたもんね……」  と、留美子は遠い目をしてから、 「ショックだったんじゃない?」  優しい視線を浩一に向けた。 「うん。正直、かなり」 「……そっか」 「外すって言われて、結構堪えた……」  絞り出すような声の浩一に、留美子は二、三度小さく頷きながら、 「わかる。私だったら、とっくに心折れてる」  留美子は、そんなふうに言ってくれた。  桜のトンネルの遊歩道。  差し込む淡いピンクの光の中を、ゆっくりと静かに歩く。 「留美子は偉いな」 「ん?どうして?」 「だって、京都に異動になっても、こうして頑張ってるじゃん」  うまく言葉にならないけど、1年振りに見る留美子は、キラキラして見えた。と、彼女は急に笑って、 「前向きに頑張れって励ましてくれたの、どこの誰よ」 「あっ……」 「まぁ、あの時はちょっと腹も立ったけどね」 「ごめん、偉そうにいろいろ言っちゃって。でも辞めるなんて言うから……」 「あぁ、あれ……もしかして、本気にした?」  また留美子は笑った。 「えっ?違うの?」 「うん……でも、本気じゃなくても、そう言うことって、あるじゃん?そうやって、心に逃げ道作る、みたいな?」 「あぁ……確かに」  頷く浩一を、留美子は申し訳なさげな面持ちになって見ながら、 「……ごめんね。心配させて」 「いや」 「でも嬉しいよ。本気で心配してくれてたんだって。元気を取り戻した今だから、そう思えるんだけど」 「うん」 「あの時は、メンタルが弱ってたから。そういう時って、励ましがただの説教に聞こえるでしょう。それで腹立って。黙って傍にいてほしいだけなのに、みたいな?勝手だよね」 「…‥わかるよ。今なら」 「そう?」  留美子はそう言って、ふと立ち止まると、浩一を見つめ、 「やっぱ、変わったね、浩一くん」 「それ、褒めてる?」 「もちろん!」  そう言って、いきなりタタタッと小走りしてから、振り返って、 「ねぇ、お腹空かない?」 「そう言えば、結構空いたかも」 「じゃ、そこの洋食屋さん、行かない?ランチが美味しいんだよ」  指差した遊歩道の脇に、お洒落な建物のお店があった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!