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「浩一くんって、きれいごとばっかり。そういうのって逆に負担なの!」
留美子がそう言って浩一の前から去ったのは、二人が25歳の時。
大学生の時にバイト先で知り合った留美子と付き合うようになって、4年が過ぎた頃だった。
同じ塾講師のバイト。
教材を作りたいという夢も同じで、高校生向けの教材を制作している、K社という都内の会社に入社した。
同じオフィスビルだったが、部署は違った。
浩一は、希望していた制作部。教材をゼロから作り上げていく部署。
一方の留美子は編集部。制作部を下支えする、サブのイメージ。
そんな留美子は、会社の休憩室で一緒になると、たまに愚痴をこぼしていた。
「いいなぁ、浩一くんは。私もゼロから教材作りに携わりたい」
「しょうがないよ。社会なんて、それが普通だろ。学生の時みたいに、やりたいことだけってわけにはいかないさ」
「それはそうだけど……でも、浩一くんは、入社してすぐにやりたいこと、やれてるじゃん?」
「たまたまだよ。逆の可能性だってあったんだし」
「まぁね……」
「前向きにならないと、運も逃げていくぞ!」
そう言って、肩をポンと叩き、紙コップのコーヒー片手に、意気揚々と仕事に戻った浩一。
デスクに戻り、ライターの先生から届いていたFAX原稿に目を通し、内容検討に入った。
仕事は充実し、気分も乗っていた。
世間から一流と呼ばれるT大学を出た浩一は、期待の新人と見られていたようで、いきなり受験生向けの中でもトップレベルの教材作成を任された。
もちろん、最初は先輩の指導の下ではあったが、3カ月でほぼ独り立ち。
課長からは、「異例の早さだ。さすがT大だ」と褒められた。
花形部署の、花形教材。
入社して3年が過ぎようとする頃。当然、モチベーションが上がり、仕事に燃えていた。
そんな折の、3月半ば。
留美子に突然、京都事業所への転勤の内示が出た。
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