想像満腹

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想像満腹

男は餓死寸前だった。 仕事に恵まれず、 わずかな貯金も使い果たし、生活保護も受けられない。 生きる希望は、何も無かった。 …僕はもうすぐ死んでしまう。誰も僕を助けてはくれない!… 涙が頬を伝う。 …神はいないのか?僕は何も悪い事などしなかった。 何故こんな目に遭わなければいけないの!… 男の瞼に浮かぶのは、山盛りの握り寿司。 ビフテキ、鰻の蒲焼。 …美味しいな〜。美味しい🤤、もう食べれない満腹だ… 食べ物を空想しただけなのに、不思議に男のお腹は一杯になっていた。 久しぶりの満腹感は、男を眠りに誘う。 夢を見ているのだろうか? 僕の側に誰かが居る? 薄ぼけた瞳に映る者は、黒い衣装の男。 …死神か?僕を迎えに来たのか?さっき食べた物は幻か。… 僕は黙って死を受け入れる準備をした。 「おい、お前。目覚めろ。」 と、低い声で僕を呼ぶ。 ゆっくりと、目を開ける僕。 「どうだ、美味しかったか?これから、お前は想像しただけで、何でも食べる事が出来るのだ。 これからは、金が無くても餓死の心配は無くなるぞ」 「貴方は死神さんですか?」 と聞いたが、応えてはもらえず、 「お前は、餓死寸前までよく頑張った。 その頑張りに褒美をやろう。 それは想像した物、 全て食べ物に変える能力をお前にやる。 これからの人生は薔薇色だぞ。」 と、言い残し死神みたいな者は消えていく。 それからは、僕に空腹は無くなった。 想い浮かべる物は全て食す事ができた。 栄養失調で痩せていた身体は 今ではメタボな男。 僕には、珍しい物でもゲテモノでも何でも食べられる。 美味しい物が味わえる。 そして、働かなくても生きられる。 人生まさに薔薇だった。 でも、この幸福はいつまでも続かない。 ある日、僕は人間を想い浮かべていた。 ……こんなに美味しいだ 🤤……
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